表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/116

第85話 ユウマの修行

 ユウマは静かな雑貨店に立ち、ぼんやりと辺りを見回していた。

 10畳ほどの広さのある店内には、様々な雑貨がひしめき合っている。

 棚の上には人形や文具、時計や食器、食べ物らしきものや服なども置かれていた。地球の物とほとんど変わりない。人造人間達が人間の物を真似て作ったのだ。

 素朴な花の絵が描かれたカップを手にとって眺める。

「これ、可愛い」

 自然に口から出た。可愛いものを可愛いと言って良い。もう無理しなくて良いのだ。

 今までの自分は、こんな優しい気持ちでモノを見る余裕が無かった。周囲を警戒し、できるだけ男子に見られるよう気を張っていたからだ。

「オレって、馬鹿だったなあ」

 独りごちながら、自分の頭をコツンとやる。こんな自分を受け入れてくれた皆に、どうやって感謝を伝えれば良いのだろう。これからどうやって罪滅ぼしをしようか。


 店のドアが開き、初老の男性が入ってきた。

「やあ。こんちには」

 初めてのお客様。初めての仕事だ。ユウマは一気に緊張した。

「あ、はい。えと、い、いらっしゃい……ませ」

 男性客は帽子を脱ぐとドア横のコートハンガーへかけた。

 白いひげをたくわえた人物だったが、西洋人と東洋人の両方にも見える。彫りが深く肌は浅黒かった。髪の毛は無く、替わりにツノのような突起物があった。

「姫さんはどうしたのかね?」

 なんと言って良いのか分からず、口ごもる。

「あの、オレ、店番を頼まれたんです。スイマセン、初めてでよく分からなくて」

「ああ。例の修行の若者だね?話は聞いているよ。可愛らしいお嬢さんだ」

「お、お嬢……」

 そういえば、女子の格好をしていたんだっけ、と気付いたユウマは急に照れ臭くなり、意味もなくスカートのシワを手の平で伸ばした。


「ところで、これの使い方がわからなくてね。調べて欲しいんだ」

 男性が懐から取り出してレジカウンター上に置いたのは、平たい円柱状のものだった。

 金属製のハンドクリームの容器に似ている。メタルの表面は鏡のようにピカピカで、ユウマと男性の顔を写していた。

「物置小屋の奥から出てきたモノでね。先々代がマスターから頂いた物らしいのだが、何なのかさっぱり分からない」

「分かりました。やってみます」

 カギ開けの時と同じように集中すると、意識が内部へ侵入していった。

 いくつもの歯車とゼンマイが入り組んだ複雑な構造。そしてアルコール燃料。

 柔らかく仄かな暖色系のイメージも流れてくる。

「こう……するのかな?」

 上面を指先で2回撫で、フッと息を吹きかける。とたん、円筒が縦に伸び、さらにガラス壁がサッと立ち上がって、勝手に火が灯った。

「わぁ」

「おおっ」

 2人で思わず感嘆の声を上げる。

 それはランプだった。

 カウンター上へ置いて、しばらく眺める。炎が静かに揺れ、机上の影がゆったりと動く。


「使い方が分かって満足したよ。こいつはお代だ。ウチの畑で取れたものでね。ドライフルーツさ」

 そう言って、持っていた布袋をカウンターへ置く。

「このランプもお前さんにあげるよ。じゃあ、姫さんによろしく言っておいてくれ」

「え?で、でも……!」

 ユウマは老人が出て行った後のドアを惚けたように見つめながら言った。

「……ありがとうございました」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ