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第81話 大門とお雪2

 ある日、大門はふらりと部屋を抜け出た後、行方不明になった。

 ミキと長老達は必死になって探し、数年間かけて人間界から見つけ出した。

 暴れる大門を数人がかりで取り押さえ、後ろ手に縛る。薄暗い尋問部屋の中央に座る彼の姿は、もう、可愛らしい少年には見えなかった。

 能面のように白く固まった顔。野獣のような金色の瞳。手足は長く変形し、口からは鋭いキバが覗いている。

 何より皆が驚いたのは、堕霊のオドがまるで凶悪なヘビのように彼の身体を取り巻いている事だった。


 ミキは震える声で尋ねた。

「あなたのオドが堕霊に堕ちているわ。一体、人間界で何をしていたの?」

 大門は俯いたまま静かに答えた。

「例の占い師を探し出した。真偽を問うと占いは嘘だったと白状したんだ。生き神様だと人々から敬われるお雪が、商売の邪魔だったんだそうだ」

 ミキと長老達が頬の筋肉を歪める。1人がポツリと言った。

「何と酷い。そんな理由でお雪殿を……」

「そうさ。だから奴を殺した。占い師の雇い主である旗本も寝首をかいて殺した。生け贄の儀式に関わった全ての者達を殺した。私のオドは堕霊となり、身体は徐々に醜く変化していったが、それでいい。私は強い力を身に付けたかったんだ。だから、この数年、徹底的に悪行に手を染めた」


 その頃、日本は幕末へと向かう混迷の時代へ突入していた。

 混乱や戦いなどが繰り返されていた各所に大門は訪れ、どさくさに紛れて悪事のかぎりを尽くしていた。

 盗み、殺し、火付け……何でもやった。人に嘘やデマを吹聴し悪人へ仕立て上げたり、人をだまして金品を巻き上げたりもした。

 ミキは思わず立ち上がった。

「自ら堕霊化したというの?!」

「私はマスターと同じような強い力を身につけたいのだ!」

「なぜそんな力を!?」

 睨み合う2人のオドが衝突し合い、狭い室内の中空にバチバチと火花が散る。

「箱船の中に眠るパワーゲートを起動するためだ。時間を遡る事ができる究極のテクノロジーを使い、お雪が殺される前に戻る。彼女を救うのだ」

 恒星間宇宙船がこの星へ着陸した時、その衝撃で地下水が吹き上がり、湖が形成された。

 船は休眠状態のまま湖底に沈んだが、内部には火星時代に使われた様々な機器や道具がそのまま眠っている。その中の一つ、パワーゲートと呼ばれるものは、オドの力によって時間と空間を越える事ができるのだ。


 愛する者の死。

 その悲しみと苦しさは仲間達に共有され、痛いほどよく分かっている。

 だが、このやり方は間違っている。

「たとえ強力な堕霊の力を身に付けても、パワーゲートは起動できないわ。あれにはマスターのオドが必要なのよ」

「やってみなくちゃ分からないだろう?」

「その為に人間界へ行き、多くの者達を犠牲にしたというの?」

「そうさ。あんなゴミ虫共が何匹消えたところで何の影響もない。人間達は欲にまみれ、利己的で、愚かだ。あんな奴等を模倣のサンプルだと言って必死に面倒を見てきた自分を心底恥に感じるよ」


 大門は椅子に縛られたまま「フンッ」と気合いを入れた。

 すると彼の身体から巨大な深紫のオドが立ち上った。

「これが堕霊の力さ。すごいだろう?」

 驚愕に震えるミキや長老達に向かって、大門は懇願を始めた。

「お願いだ。君達も堕霊化してくれ。力を合わせれば、マスターの力など軽く越え、パワーゲートを起動できると思う。私を手伝ってほしい」

「そんなことは無理よ」

 ミキは首を激しく振った。

「私たち人造人間は不完全な存在よ。だからこそ善良な方向へ進化しようとする。我々は心を持った生きた機械人形なの。堕霊化してまで協力はできないわ」

「……肝心な時に手を貸そうともせず、何が仲間だ!」

 大門はギリリと歯を食いしばると縄を切り、自分を取り囲むミキと長老達を指をさして叫んだ。

「時間を遡ってお雪を救うのだ。それの何が悪い!?」

「ダメよ。ダイモン!」

「うるさい!歴史が変わろうが知ったこっちゃない」

 大門が憤怒の叫びを上げた。

「憎い憎い憎い!まず、お前達を殺してやる!」

 彼の堕霊がまるで九頭の竜のように拡散し、部屋の壁と屋根を破壊した。その衝撃で、2人の長老の身体が上下に引き裂かれた。

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