第79話 恋
『だが、マスター達は子孫を残すには人数が少なすぎた』
最後のマスターが、臨終の際に人造人間たちへ向けた言葉が再生される。
『愛を育み、そして子を産んで増やせ。君達にはその機能がある』
恐らく葬儀の様子であろう。遺体を囲み、悲しみにくれる人造人間たち。
『我々は模倣することによって進化するが、その対象者たるマスターがいなくなり、やがて自分達も滅ぶ運命なのかと絶望しかけた。だが、我々は諦めなかった。唯一稼働しているスターゲートを使って模倣の素材を地球人へ求めたのである』
中庭で見たトーラス岩がクローズアップされる。
『さて、理解できたかしら』
ミキが現れ、ビシッと人差し指をこちらへ向ける。
『このプレゼン資料を作るのは大変だったのよ。どう説明したら分かってくれるかと熟慮し、地球のインターネットで流行している動画番組を模倣させてもらったわ』
フレームインしたマリがミキの隣へ立った。
『ちなみに私も資料収集と映像編集を行いました』
音楽がゆったりとした曲調へと変わる。
『この番組は光虫を通じてお届けしていますが、副反応として軽い催眠状態へ陥ります。皆さんは既におネムのはずです』
いつの間にかパジャマ姿になったマリとミキが、枕を抱えて並んだ。
『こんな演出はいらないんじゃない?』
ミキが抗議するも、マリはそれを軽くスルーした。
『姫様ほらほら、手を振ってください。みなさーん、最後までご視聴ありがとうございました。気に入った方は、いいねボタンを押して登録もしてね!それじゃあ、朝までグッスリおやすみなさーい』
手を振る二人の姿が徐々に消えていく。
皆、宇宙空間を漂っているようなフワフワとした幸福感に包まれて気分が良くなり、何も考えられなくなった。
そして朝を迎えた。
弘樹は瞼越しに薄明かりを感じ、ああ朝か、マリの言った通り自分は眠ってしまったのだ、と、ぼんやりと考えた。
目をうっすら開けると至近距離にユウマの寝顔があり、ハッと身を起こす。
自分とユウマの間へ挟まったミキが、だらしない格好で眠っていた。
辺りを見回すと、皆ソファや絨毯の上で寝ており、翔太と明美、そしてマリも床上で川の字になっていた。
窓から朝日の柔らかい光が差し込み、涼しい風がユウマの髪の毛を揺らしている。
シャープな顎のライン、丸い唇、うなじの産毛。
見ているとクラクラし、思わず手で触れてしまいそうになる。
弘樹は胸の高鳴りを感じた。この気持ちが「恋」なのか?
この衝動のままに恋を追ってもいいのか?だが、それでは『ユウマが女っぽくなったから積極的になった軽い男』じゃねえか。
こいつが男のままでも、俺は惚れていたのか?
いや、そもそもユウマは俺のことをどう思っているんだろう。
ううむ。何だかよく分かんねえ。
いくつもの疑問符が心の中を飛び交い、頭を抱えて悩む。
その時、寝返りしたミキの踵が鳩尾へ入り、派手にソファから落ちた弘樹がしばらく悶絶していた。




