第7話 脅迫
ユウマの顔からサッと血の気が引き、背中に汗が滲んだ。
そうか、あの場にいた作業着姿の男は遠藤。顔がバレないようにトカゲの仮面を被っていたに違いない。
だが、妙だ。もう一人は少年で、大門の姿はなかったはず。
ユウマは低い声で尋ねた。
「……なぜ、先生がこの映像を?」
大門はその問いには答えず、柔らかな笑みを見せながら言った。
「実は、我々のお願いを聞いて貰えないかと思っているんです」
意味深なその言葉に、ユウマは前髪の隙間から彼の顔を睨んだ。
「つまり、昨夜の件でオレを脅そうというのか?」
隣に座っている遠藤が身体をすり寄せながらユウマの顔を覗き込み、小声で言った。
「大門さんの言っている意味、分かるだろう?泥棒がバレたらお前ぇは退学。いや下手すると刑務所行きだ」
遠藤はユウマの手を取り、イヤらしく何度も撫でる。
「柔らけぇし、小っちぇ手だな……この細い指でどうやって鍵を開けているんだ。ピッキングか?よくもまぁ、セキュリティに引っかからねぇで侵入できるもんだ」
そして、珍しい物を見るような、品定めするような目でユウマを上から下まで見た。
「お前ぇは男か?それとも女なのか?その制服を着ているって事は男なんだろうが、たいしたベッピンだなぁ」
ユウマの背筋に鳥肌が立ち、同時に今までの嫌な記憶が脳裏へ浮かんだ。
自分を診察した医者。
街中でスカウトしてきたガラの悪いチンピラ。
バイトの面接へ行ったのに、援交を持ちかけてきたオッサン店長。
オレの外見を面白がって猫なで声ですり寄って来る連中ばかりだった。きっとこいつらも卑しく、イヤらしい事を企んでいるに違いない。
ユウマは遠藤の手を振り払い、ソファから立ち上がった。
「弱みにつけ込んで、脅して言うことを聞かせるつもりか?!どうせ、オレを慰み者にしようっていう魂胆だろう?子供の頃から、オレの姿が珍しいからって、変な大人が集まってきた。アンタ達も同類だろ?もう、うんざりだ!」
ユウマの心の中には、大人への猜疑心が深く根を下ろしていた。溜まっていた鬱憤や怒り、不安や絶望が堰を切ったように溢れ出して止まらなくなった。
「おいおい。お前ぇ、何か勘違いをしているぜ」
呆れたように言う遠藤。だが、激昂したユウマはその言葉を聞いていなかった。
「オレはおとこおんなの妖怪人間だ!映像を公開するならしてみろ。脅されて好きにされるくらいなら、お前達を殺してやる」
本気だった。いざとなったら念動力を使って戦うつもりだ。ユウマは荒い息を吐きながら両の拳を握って構えた。
だが、大門は手を叩いて笑った。
「おとこおんなの妖怪人間?なかなか面白いことを言いますね。まあ、確かに君の外面は両性的で不思議な魅力を持っていますが、妖怪というほどではない」
「うるさい。馬鹿にするな!」
大門は静かに立ち上がって眼鏡を外した。やる気か?とユウマはグッと腰を落として戦闘態勢に構えた。