第77話 光虫
その日の夕食後。
リビングに集まった4人が、だらしなくソファへ寝転がっていた。今日は修行に集中したのでとても疲れていたのだ。
そこへミキとマリがやってきた。
「さあ、右手をお出し。これから光虫を配るわ」
ミキが小さな木箱の蓋を開けた。
「ひかりむし?」
皆が首をかしげる。
「コレです」
マリが右手の甲を見せる。そこには十円硬貨大の発光するプレートが張り付いていた。
「地球で言うところのウェアラブル端末よ」
ミキは木箱の中から光虫を取り出すと、4人の手の甲へ乗せていった。それは厚みが無く、シールのようにピタリと皮膚へ吸着した。
「この瞬間から、光虫は持ち主のメンタルやバイタルの全てを記録し、模倣データバンクへ記録していく。ちなみに、通信機器としても使えるの。意識へ繋がるスマホの進化形みたいなものよ。これに向かって伝えたい相手に念じればいいだけ」
そしてユウマに向かって言った。
「さあ、試してみてちょうだい」
ユウマは戸惑いつつも、光虫へ指を乗せ軽く目を瞑った。
その途端、皆の頭へ強いイメージ映像が流れ込んだ。視界の中央に大きなスクリーンが出現し、弘樹の姿が映る。
『これからは素のままでいい』
『お前の決めた事はそのまま受け止めてやる』
それはユウマに向かって言ったシーンだ。皆が「おおっ」と声を上げる。
「俺だ!俺の姿が目の前に現れた!」
「カゲちゃん視点の、昨夜の弘樹だね」
「へえ。ユウマさんの作るイメージ画像は解像度が高いですね〜」
「弘樹が映っているわよ!すっご~い」
ユウマは大いに慌ててミキへしがみついた。
「ど、どど、どうやって止めるの?!」
「考えるのをやめれば良いのよ」
ユウマが光虫に手を当てて「考えるのを……やめる……」と、念じながら目を瞑る。
『お前はもう、泥棒じゃない』
「えっ?え?!どうして?まだ続いているよ」
大騒ぎするユウマ。
その後、暫くして映像が止まった。
「ご、ごめん!昨夜の事が嬉しかったから、強く記憶に残っていて……」
しきりに謝るユウマと、その隣で赤面で立ち尽くす弘樹。
翔太と明美はニヤニヤしながらそんな2人を眺めた。




