第74話 なりたい自分になろう
その頃、ユウマは目覚めた。
こんなに眠ったのは久しぶりだ。最近は睡眠不足が続いていたせいで、頭痛と居眠りとの戦いだった。
ふと、ここは自分が住むアパートではない事に気がつき、そういえばミキの星に来たんだっけ、と思いながらベッドから起きた。
カーテンを開け、窓の外を眺める。
晴れた空。
綿菓子のような雲。
向こうに広がる水面は海か湖だろうか。白い帆を広げて疾る小さな舟が見える。
絵に描かれたような可愛らしい家々が連なり、色とりどりの屋根と壁が陽の光を浴びて鮮やかな色合いを見せていた。
まだフラつきはするが、昨日に比べてだいぶ体調が良い。
『罪滅ぼしなら、俺も手伝う。お前が決めたことは、俺が受け止めてやる』
ふと、昨夜、弘樹に言われた事を思い出した。
とても嬉しかった。嬉しくて、また涙が出て来る。
今まで悩んでいた事が嘘だったかのように、頭の中がスッキリしている。
泥棒の罪が消えたわけじゃ無いのは分かっているが、こんなに晴れやかな気分になるなら、もっと早く勇気を出して告白するべきだった。
見捨てたりしない、と言ってくれた弘樹。自分も彼のために何かしてあげたい。何が良いんだろう。一体、何が……?
『結婚……家庭……子供』
弘樹が語っていた理想の家族象を思い出した。
彼のために女の子になれれば、その希望を叶えてあげられるのかな。
オレが女の子になれば、弘樹の子供を産む事ができる……。
ユウマの頭の中に想像が広がる。
大人になった弘樹と自分がいて、その間には二人の子供が遊んでいる。忙しい毎日だが、弘樹は優しい夫で、自分も良き妻で母で、子供達はとても可愛くて……。
照れくさくなって、頭をかきながら「ヘヘヘ」と笑ってしまった。
腹の中のオド結晶が、また大量に何かを放出し始めた。
心臓の鼓動が早くなるのと同時に、切ないようなもどかしいような感覚が全身に広がる。
その途端、ふっと腰の力が抜けてベッドへ座り込んでしまった。両手のひらを見ると、乳白色のオドが爆発したように輝いている様子が見える。
ああ、弘樹に会いたい。早く会って昨夜のお礼を言いたい。そう考え、着替えの服を探した。
枕元に2着の服が置かれているのが目に入った。きっと、好きな方を選べという事なのだろう。
いつもの習慣でカッターシャツとスラックスへ手を伸ばしたが、隣を見ると、リネン地の白シャツと濃いベージュのスカートがある事に気づいた。
シャツの胸元に刺繍された赤い花のワンポイントが可愛い。
そう。オレは可愛い服が好きだ。もう無理をして男っぽく振る舞わなくてもいいんだ。
自分に素直に生きよう。
なりたい自分になろう。
ユウマは着替えを始めた。
この服を着たらどう思われるだろうか。みんなの目にどう映るだろうか。
そして、弘樹は何て言うだろうか、と、考えながら。