第72話 愛と性の関係
「さて、今回あなた達から得たい模倣データは、愛と性の関係、つまり愛情行動が脳内でのホルモンの分泌にどのように紐付かれているのか、なの」
ミキの言葉に、皆が目を丸くしながら顔を見合わせた。
「愛が脳にどのような影響を与えて性欲に繋がるのか、生殖行動や受精や妊娠までのプロセスを……」
「ちょっと待って」
と、明美が話を遮る。
「アンタいま、せ、性欲とか言わなかった?」
「言ったわよ」
「今まではそういうことを知らなかったっていうの?じゃ、じゃあ、どうしていたのよ。その……アレ、を」
質問した明美だったが、顔を真っ赤にさせながら両脚をモジモジさせていた。
「私達だって愛は知っている。だけど、それは概念を知っているだけで、愛情と性の結びつきを模倣する機会が少なかったの。だから、赤ちゃんを作るのに必要な生体機能は備わっているけど、まだ起動していないの」
ミキは眉間に皺を寄せ、グッと拳を握りしめた。
「その事が判明するまで数百年もかかったわ。この星の開拓や生活向上が最優先だったので、子孫繁栄に関する事は後回しにするしかなかったのよ」
「じゃあ君たちは、どうやって人口を維持していたんだい?」
「私達は老いると魂を取り出して新しいボディに移すの。だから人口の増減はしていないわ」
「魂を……取り出す?」
さらりと説明するミキ。だが、理解が追いつかない翔太は「うーん、分からなくなってきた」と唸りながら首を傾げた。
「我々は発達と進化の最終段階として、自分達の力で子供を残したいの」
のの字を描くように自分の腹をさするミキ。その様子を見た明美が、ハッと顔を上げた。
「まさか、赤ちゃんが欲しいのはアンタなの?でも、その小学生みたいな身体で、妊娠は無理じゃない?」
「私は人造人間だから胎児の成長に合わせて、いくらでも骨格を変えられるわ」
「ふーん」
と、感心した明美だったが、ふと何かに気づいた。
「ちょっと待って。翔太とアタシを連れてくる予定だった、ってことは、つまり……」
「そうよ。2人の事を色々と観察させてもらうつもりよ」
「ま、待ってよ!アタシ達、別に……そんな関係じゃ……ないし……」
チラチラと翔太の横顔を見る。
ミキはそんな明美に一瞥を送ると「知っているわ」と、言いながら溜め息を吐いた。
「あなた達が交際していると聞いていたけど、それが誤情報だと分かって計画の変更を余儀なくされたの。『可愛くて馴れ馴れしい女子』を演じて明美の対抗心を燃やし、しかも2人が出来るだけ離れないように仕向け、しかもダイモン達から守るのは大変だったわ」
「変だと思っていたのよ。あんなふうにぶりっ子で積極的な子なんて漫画やドラマの中でしか観たことないもん」
「あら。模倣データを検索した結果『かわいい』=『ぶりっ子』と出てきたので、それに沿ったのよ。何もおかしなことなど無いわ」
「ええと。そのデータ古いんじゃ……いえ。何でもないわ」
明美は、自信満々に胸を張るミキを見て何も言えなくなってしまい、苦笑しながら鼻の頭を掻いた。
「オッホン。話を元に戻すわ」
咳払いし、傍らのトーラス岩をポンポンと叩く。
「どちらにせよ、オドを高めなければあなた達は帰還できない。私が直々に修行を監督するのだからサボらずに頑張ってよね」
「その修行って期間はどのくらいかかるの?3日くらい?」
と、明美が尋ねる。
「それはあなた達次第だけど、順調に進めば30日後くらいには帰還できるわ」
「30日!?ムリよ。ムリムリ!学校祭が始まっちゃうわ」
明美が半ベソをかく。だが、ミキは淡々と非情な言葉を口にした。
「途中で修行を放棄した人もいるけど、もちろん帰ることが出来ず、ここで一生を過ごしたわ。まあ、我々は模倣データが取得できればそれで良いから、別にかまわないんだけど」
「ハハハ。大人しく修行をするしかないってことだね」
翔太が乾いた笑いと共に言った。




