第71話 冥界へ来た理由
翌日、ユウマを除く3人は早朝からミキに起こされた。
「来なさい」
と、呼び出された先には、住宅4軒分の広さはあろうと思われる庭が広がっていた。
整えられた芝生の上には、アイボリーの日除けパラソルと白く可愛らしい机と椅子が2セット置かれている。晴れ渡った空の青さ、そして緑と白のコントラストが眩しかった。
その庭の中央付近に、神社の御神体とそっくりなトーラス状の岩が鎮座していた。
「学園神社の御神体に似ている」
翔太が顔を擦り寄せるように観察した。
「そう。対となる1つよ。本来なら、あんな郊外の草原ではなく、ここへ到着するはずだったの」
ミキが岩肌を軽く撫でると、あの時と同じように文字が浮かび上がり、穴の部分に何かが写った。
「さあ。この向こうをご覧なさい」
促された3人は恐る恐る近づき、黒い穴を覗き込んだ。
鳥居が見える。狛犬や手洗所も。これはまさしく学園神社の御神体から見た風景だ。
「ご覧の通り、あなた達の住む地球よ。この穴を通れば戻れるのだけれど……明美、試してちょうだい」
と、手招きする。
「アタシが?いいわよ」
トーラス岩の前に立ち、まず右手を押し込もうとしたが、見えないガラスの壁へ当たったかのように、硬い抵抗があった。
体当たりするが、やはり壁がある。
「俺が試そう」
弘樹が力任せに体当たりしたが、ビクともしなかった。
「スターゲートは中程度以上のオドを持つ者しか通れない仕組みになっているの。連れてくるときは私と一緒だから問題無いけど、帰るときは1人で通るように設計されているのよ」
神社の光景が少しずつ霞んで薄くなり、やがて消えていった。
翔太が「なるほど」と頷いた。
「そのオドっていうものの量が少なすぎてもダメ、多すぎてもダメ。安定した転送を保つための条件……ということ?」
「その通り。理解が早くて助かるわ。幸い、この惑星は地球より濃いオドに満ちあふれているから、私の考案した修行をメニューを最後まで行えば、確実にオド力が高まってゲートを通れるようになるの」
「その、オドって何だい?」
「生き物が持っている心の力、魂の力の事よ。地球ではオーラとか霊力とも呼ばれているわ」
ミキが腰に手を当て「さて、本題よ」と、皆をキリリと見た。
「私たち人造人間は、マスターの行動や思考を模倣することによって発達するように作られたわ。けれど、マスター亡きあと、模倣のサンプルを他から得る必要があったの。それが地球人よ」
と、3人を指さす。
「この星で共に生活する事で行動や思考などの模倣データが得られる。一方で、人間はオド向上の修行を積むと潜在能力が高まる。つまり両者にとってウィンウィンの関係が成り立つ、という訳よ」
ミキは両手の指を胸の前に出し、ハートの形を作った。
なるほど、これが言い伝えの真実か。叔父さんが色々な事業に成功したり、肉体年齢が20代なのは、ここで修行した成果だったのか。
と、翔太は納得し、何度も頷いた。