第6話 大門と遠藤
社会科研究室の扉をノックをすると、中から「どうぞ」という声が聞こえた。
ユウマは少し緊張しながら入室した。
乱雑に本が詰め込まれた本棚と、授業の資料が積まれたスチールの事務机が見える。部屋の真ん中には黒い合皮の応接セットがあった。
「やあ。適当に座ってください」
部屋の奥から透き通るバリトンの声が聞こえる。大門は備え付けの小さなシンクの前に立ち、インスタントコーヒーを入れていた。
ユウマはソファへ腰を下し、反省しているフリを見せるため、ずっと自分の足元を見ていた。
「どうぞ」
と、大門がテーブルへマグカップを置く。湯気を立てる茶褐色の液体が見えた。
「後は、お好みで」
そう言ってテーブル上のスティックシュガーとミルクを指さす。そして自席へ座ると自分のコーヒーを静かに啜った。
大門がなかなか話題に入ろうとしないので、しびれを切らしたユウマが先に口を開いた。
「あ……あの。先ほどは御免なさい。今後は注意します」
すると、彼はカップに口を付けたまま、こちらを見た。
「別に説教しようと思って呼んだ訳じゃありません。昨夜の件で君と話がしたいと思ってね」
「え?」
思わず聞き返し、惚けたように大門を見つめた。
人の気配を感じて後ろを振り向くと、いつの間にか作業着姿の男が立っていた。彼はニヤニヤ笑いながら、
「遅くなりやした」
と、頭を軽く下げた。
清潔感のある大門とは対照的な初老の男だ。
猫背で身長が低い割には腕が妙に長い。目と口が大きく、長い髪の毛は四方へ向かってボサボサと伸びている。
「用務員の遠藤君です」
と、大門が顎で男を指した。
彼は持っていたものをユウマへ投げた。それは昨夜の騒ぎで奪われた自分のデイパックだった。
「お前ぇの忘れモンだ。パン泥棒さんよぉ、随分と大量にギッたな」
遠藤は大きな口を開けてニタリと笑い、大門の隣へ座った。妙な訛りと昭和臭いヤクザな喋り方は、粗野で品がなかった。
「さて。話を始めましょうか」
大門はそう言うと、傍らに置かれた紙袋からガサガサと何かを取り出した。それは、ユウマが事務室の金庫から盗み出したキューブだった。
「これに見覚えがあるでしょう?昨夜、君が盗んだものです」
ユウマはそれにチラリと視線を送ると、フフと笑った。
「さっきからいったい何の事ですか?オレが盗んだなんて、どこにそんな証拠が?」
心臓がバクバクと音を立てている。平静を装おうとしたが、声が上ずり、手も細かく震えた。
「ほらよ。これもお前ぇの物だろ?」
遠藤が再び何かを投げた。昨夜、被っていた黒髪ウィッグがユウマの膝の上に落ちた。
大門は背広の内ポケットからスマホを取り出すと、画面をこちらへ向けた。そこには、遠藤に取り押さえられている巫女姿のユウマが撮影されており、ウィッグを取られた瞬間がコマ撮りのように動いた。