第66話 人造人間
こちらへ向かってくる者が現れた。
それはミキと同じくらいの背格好の少女で、白っぽいワンピースとエプロンを身に付け、黒ロングのおさげ髪という姿だった。
彼女は手綱を握っており、ロバによく似た生き物と共に石畳の小道を歩いて来た。
「姫様~」
ランプを持った手を振りながら駆け寄ってくる。そしてミキの前まで来ると立ち止まり、裾をヒラリと持ち上げて会釈した。
「お帰りなさいませ。お迎えに上がりました」
次に、少女は皆の方を見て深々と頭を下げた。
「お初にお目にかかります。わたくし姫様の侍女をしているマリと申します。ちなみに真愛琉と書いてマリです。どうぞお見知り置きを」
彼女はミキの右肩の傷を覗き込むと顔をしかめた。
「あらら。随分と派手にやられちゃいましたね」
そして、皆が見ている前にも関わらず、ミキの上着を脱がせ始めた。
「ちょっ、何やってんのよアンタ。裸にさせるつもり!?」
明美が慌てて止めようとしたが、マリは自分のエプロンを外すと三角巾のようにミキの右手を固定した。
大門から受けた傷は深く、右肩の皮膚がえぐれている。だが、出血は止まっていた。
翔太が不思議そうに首をかしげながら、その傷口を見た。
「まるで樹脂かゴムのようだ。人間の身体じゃない」
ミキが「そうよ」と、頷く。
「良く見抜いたわね。私は人ではなく人工生命体。地球的に言うと人造人間よ」
「じ、人造……?」
絶句する翔太を横目に、ミキがロバの背にひらりと跨がった。
「歩きながら説明するわ。さあ、行くわよ」
その言葉で、弘樹がハッと気付いて顔を上げた。
「一体、どこへ?」
彼女は遠くに見える町の明かりを指さした。
「あの町へ向かうわ。まだまだ小さいけれど、この国の首都よ。私の屋敷がある」
「どうしてお前の家へ行かなくちゃならないんだよ!」
「騒がしい小猿ね。さっきから突っかかってきてばかり。怖がっているのは分かるけど、少し落ち着きなさい」
「小猿だと?怖がっているだと?ふざけるな!」
ミキの襟首を掴もうと手を伸ばす。
「あなたのそういう短気な行動がユウマを気絶させたのよ。その拳で私にも同じ事をするつもり?」
語気強く言いながら、翔太と明美に介抱されているユウマを指さす。その言葉で弘樹は一気に勢いを無くした。
そんな2人のやりとりを見て、翔太が立ち上がった。
「ここは、とりあえずミキちゃんの言う事を聞こうじゃないか。どっちにしろ、こんな見知らぬ場所に来てしまって、右も左も分からないからね。色々と不可解な出来事が重なって戸惑っているけど……」
ユウマの額をハンカチで拭っていた明美も、その言葉に頷いた。
「そうね。カゲちゃんも何とかしないといけないし」
「翔太と明美は状況の把握が早いわ。で、あなたはどうするの?」
髪をサラリとかき上げてツンと顎を上げたミキが、弘樹を一瞥する。
彼は視線を外し「チッ」と舌打ちをした。
「こうなったのは俺の責任だ。おぶっていくよ」
と、ユウマを背負った。
手綱を引くマリと、ロバの背に揺られるミキ。
その後を皆が続き、石畳の道を町の灯へ向かって進んだ。




