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第65話 異星へ

 濃厚な青草の香り。

 虫の鳴く声が聞こえる。

 いつの間にか夜になっており、空には満天の星と大小3つの月が薄く光を放っていた。

 草原の中に伸びる石畳の小道には街灯が点々と並び、その先には光に包まれた町並みが見える。

 先程の騒動が嘘だったかのように、静かで穏やかな光景だった。


 草地へ折り重なるように倒れた5人が「痛てて」と、呻きながら起き上がっていく。

「ねえ。ここはどこ?」

 最初に明美が言葉を発した。

「どこ……なのかな?」

 と、翔太が辺りをキョロキョロと見回す。

「学校は?神社は?あの気持ち悪い連中は?」

 明美が半ベソになりながら翔太にしがみついた。


 ガバリと起き上がった弘樹が女子制服姿のユウマへ詰め寄り、ウィッグを掴んで乱暴に投げ捨てると、片手で胸倉を掴んだ。

「おい、ユウマ!どういうつもりだ?!いつから、あいつらの仲間だったんだ?」

 激高し、こめかみに青筋を立てた弘樹が、そのままユウマを持ち上げる。

「オレは……あ、あの……」

「パンを盗んでいたのは本当か?!キューブを奪うために俺達へ近付いたのか?!」

 ギリギリと首を締め上げられ、ついに、ユウマのつま先が地面から離れた。

「くっ……苦しっ……!」

 足をバタつかせていたユウマだったが、急に力が抜けたようにガクリと首がうな垂れた。

「あっ!」

 慌てて手を離す弘樹。ユウマはそのまま草むらに跪くと倒れてしまった。

「ちょっと、やめてよ!」

「そうだよ、やりすぎだぞ」

 駆け寄る翔太と明美。

「いや、俺は、その……」

 激しく動揺する弘樹。

「カゲちゃん!カゲちゃん!どうしよう、死んじゃったの?」

 明美はぐったりしているユウマの肩を必死に揺すった。

 すると、無言で近づいてきたミキがユウマの身体に手をかざし、スキャンするよう左右へ動かした。

「大丈夫。気を失っているだけよ。大門の堕霊玉で操られたとはいえ、あんな無茶な戦い方をするんだもの。しかも自力で玉を吐き出しから、精根尽き果てたのよ」

 そう言って、皆の方を振り返る。


 月光の薄明かりに照らされた彼女の顔つきは、いままでのミキとは違っていた。

 キュッと結ばれた唇からは意志の強さを伺わせる鋭い力を、そして大きな瞳からは、聡明さが感じられた。

 彼女は巫女服についたホコリを手で払うと、腰に手を当てたまま「やれやれ」と、辺りを見回した。

「こんな町外れまで飛ばされてしまうなんて……一度の転送にあなた達だけじゃなくダイモン達も乗せたから、明らかに定員オーバーよ」

 弘樹が彼女の前へ立ち、詰め寄った。

「おい。お前はミキなのか?それとも本当に隠し童なのか?ここは冥界なのか?」

 明美も泣き出しそうになりながら尋ねた。

「そうよ、アンタどうしちゃったのよ。いつものブリッ子はどうしたのよ」


 ミキはおもむろに左手を上げ、夜空の一点を指さした。

「あの星をご覧なさい。あれが太陽。あなた達の地球があそこを回っている」

 次に、地面を指さした。

「ここは太陽に近い恒星で、地球の人々がエリダヌス座イプシロン星と呼んでいる、その第二惑星。私はここを治めている姫であり、人間からは『隠し童』と呼ばれている者よ」

 3人はキョトンと顔を見合わせていたが、ミキは淡々とした口調で説明を続けた。


「私は翔太と明美をここへ連れて来るため、そしてダイモンを処分するため石野学園へ潜入し計画的に接近したの。素性を隠すため元気でバカっぽい女子を演じたけど、なかなか大変だったわ」

「さっきから妙なことばかり言いやがって。まさか、お前もアイツらの仲間か?俺らを罠にハメようとしているんじゃないのか」

 弘樹が睨みつける。だが、ミキはそれには全く動じず、逆に呆れたように深いため息を吐いた。

「馬鹿な事を言わないでちょうだい。ダイモンは私の宿敵よ。本当は人間界で処分したかったけど、騒ぎが膨れあがったので、仕方なくこちらへ連れてきたの」


 そして、周囲をグルリと見渡した。

「転送の時、あなた達は私に触れていたから離れずに済んだけど、ダイモン達はそれぞれ遠くの方に吹き飛ばされた。取り敢えずの危機は回避できたわ」

「翔太と明美を連れてくるため、と言ったな?それはどういう意味だ」

「用があるからに決まってるじゃない。ちなみに、ユウマは途中で計画を変更して連れてくる事に決めたの。だから、あなたはオマケよ」

 と、弘樹を指さす。

「さっきのあれは何だ?辺り一面光っていたぞ?」

「神社にトーラス型の岩があったでしょう?あれは地球とこの星を繋ぐスターゲートよ。オドを使って転送システムを起動する仕組みなの」

 弘樹の口がポカンと開いた。

「な、何を言っているのか分からん。お前らはどうだ?」

「さっぱり」

「ぜんぜん」

 翔太と明美が首を振った。

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