第64話 スターゲートの起動
「旦那ぁ。旦那ぁ!」
社会科研究室で倒れていた遠藤が、ふらつく足取りで神社へやってきた。
「旦那、聞いて下せぇ!ユウマはオドを使って俺の過去を覗きやした。隠し童と同じ技を使った!きっと、奴からパワーを授かったんだ。裏切り者だ!」
そう言った後、パタリと倒れた遠藤が「痛い痛い」と頭を抱え、再び悶絶し始めた。
「過去を覗く?普通の人間がそのような強いオドを持っているなど……」
言いかけた大門の口が開いたまま静止した。ユウマの腹の辺りが光り輝いて見えたからだ。
「まさか、それはオド結晶!?」
目を擦って、再び見る。
「……4つ目のキューブだ!」
気付かれた、とミキは舌打ちした。
「フン。この小僧に飲ませてまで、私の目を欺きたかったのか」
少年の大門は、バリアの内側でこちらを睨むミキを一瞥すると、クルリと背を向けた。
そして鉤爪を構えてユウマへ向かって歩く。
「私の知らぬところで、君たち二人は会っていたという事だな?裏切り者め。罰として腹を割いてオド結晶を取り出させてもらうぞ」
金色の目は更にギラつき、真っ赤な口からは獲物を見つけた肉食獣のように涎を流していた。
危機が迫っているにも関わらず、ユウマは惚けたように立ったまま、小さな大門の姿を見つめている。
ミキは唇を噛んだ。
このままではユウマは殺される。
だが、大門と戦いながら身一つで背後の3人を守りつつ、ユウマを救う事はできない。それに、この事態を長引かせれば、彼は本気で学校内で殺戮を行うだろう。
「仕方がない」
合掌したミキが両手を勢いよく広げると、本殿のトーラス岩の振動が激しくなり、光のドームが発生して周囲を包み込んだ。
キョロキョロと辺りを見た大門が憤る。
「貴様!スターゲートの使用権を奪ったな!?」
ミキはユウマへ呼びかけた。
「今のあなたは大門に操られている。きっと彼から堕霊の結晶玉を飲まされたのでしょう?それを吐き出しなさい。あなたなら出来る!」
それでもユウマはぼんやりしている。ミキは更に語気を強めて言った。
「一度起動したゲートは使用するまで終了できない。これから私達は『星』へ向かう。ユウマ!あなたも来るのよ!」
必死の呼び掛けに、ユウマの瞳に光が戻り始めた。
深海から急浮上するように意識が覚醒へと向かっていく。
途端、胸の奥からこみ上げるような吐き気が襲ってきた。思わず地面へ跪き、何度も嘔吐を繰り返した。
鉤爪を構えた大門が徐々に近づいてくる姿が見える。
ユウマは焦った。
逃げなければ殺される。だが、身体が異物を排除させようと何度も嘔吐させ、その場から動く事ができない。
「ユウマ!」
再びミキが呼びかける。
「立ちなさい。あなたが生きる場所はこちら側よ!」
その瞬間、ユウマの口から堕霊の結晶玉が飛び出て地面へ転がった。
激しく咳き込みながら震える足に力を込めて立ち上がる。そして爆発的に走った。
「待て!」
追ってくる大門の腕をタッチの差でかわし、弧を描くように境内を走って皆の元へ向かう。
ユウマが手を伸ばす。その手をミキが掴んで思い切り抱き寄せた。
「さあ、行くわよ。みんな私の身体を掴んで。絶対に離しては駄目よ」
ミキが九字を切るように両手を素早く動かすと、光が彼女の周囲に収縮するように集まり、丸いドーム状となって皆を包み込んだ。
「ユウマを渡せ!オドを寄こせ!」
大門はドームを破壊しようと何度も殴ってくる。
トーラス岩から光の筋が広がり、モーター音に似た大きな機械音が鳴り響く。周りの風景が陽炎のようにユラユラと揺れ出した。
「な、何だこの光は?!」
「おい。見ろ!風景が変だ!」
「ちょっと待って、怖いんだけど!」
その場の全員が光へ包まれ、そして消えた。