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第60話 翔太の気持ち

 妹を交通事故で亡くしたのは、翔太が5歳の頃だった。

 幼い彼女はまだ2歳。

「にいに、にいに」

 と、駆け寄ってくる可愛らしい姿を思い出し、翔太は涙に暮れていた。

 そんな彼に手を差し伸べたのが叔父である富一だった。

「心の傷は簡単に治せないが、痛みを乗り越えることはできる。俺にその手伝いをさせてくれ」

 そう言われ、よく分からないまま石野町まで連れて来られた。

 下町情緒溢れる商店街と自然豊かな石野学園の広大な校庭林は、翔太の涙を拭い少しずつ笑顔を取り戻させていった。

 そんなときに現れたのが明美だった。

 年齢が一つ上というだけで、やたらと姉さん風を吹かす子だなあと思ったが、妙に気が合うし、一緒に遊んでいると楽しかった。

 彼女とは毎日のように会い、夏休みには翔太宅に泊まり込みで宿題をする、なんて事もあった。

 いつしか、そのお泊まり会に弘樹というメンバーが増え、賑やかになっていった。

 富一が言った通り、妹を不幸な事故で亡くしたという心の傷は消えない。だが、痛みはもう感じなかった。友達や自分を取り巻く環境が、いつの間にか癒やしてくれたのだ。


 小学校5年生のある日、お祭りのくじ引きで、おもちゃの指輪が当たった。

 翔太は何気なく、隣を歩く浴衣姿の明美にそれを渡した。

「これ、あげるよ」

 彼女はハッと顔を上げ、指輪と翔太を交互に見ると潤んだ瞳で言った。

「……ありがと。大事にする」

 その瞬間、翔太は自分の明美に対する気持ちを理解した。

 僕は、明美のことが好きだ。

 うん。大好きだ。

 でも、この気持ちって家族に対する愛情と似ている。

 僕は明美に対して、亡くした妹への愛を投影させているんだ。それは、きっと僕がまだ子供だからだろう。

「な、何よぅ。そんなに見ないでよ……恥ずかしい!」

 翔太の視線を振り払うように、明美は下駄を鳴らしながら逃げるように先を歩いて行った。


 はやく大人になりたい。そして明美の思いに応えられる人間になりたい。

 翔太は以前から興味のあった機械やコンピュータの勉強へ力を入れるようになった。 

 技術や知識を身に付けて、叔父さんのように立派な人間になり、技術者や科学者として世の中の役に立ちたい。そして、明美をお嫁さんに迎えるんだ。

 

 おもちゃの指輪が、明美の机の奥に保管されていることを、翔太は知らない。

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