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第57話 夜襲

 けたたましいエンジン音が、家の外から聞こえた。

 時刻は2時半すぎ。就寝中の翔太と弘樹が寝ぼけた目でガバリと起き上がり、そこへ、ジャージ姿の明美とミキが飛び込んできた。

「暴走族よ!河野じゃないの?!」

「いやーん。怖い」

 恐らく家の周りをグルグルと走り回っているであろうバイク。雷鳴のような騒音が響く中、4人はしばし呆然としていた。

 1人足りないことに気がついたのは弘樹だった。

「おい。ユウマはどうした?女子達と一緒じゃなかったのか?」

 その問いかけに、明美は首を振った。

「写真を見ている途中でいなくなったけど、てっきり、アンタ達とゲームしているかと思っていたわ」

「先輩。ドアの所にこんなメモが貼っていたよ」

 ミキがピンクの付箋紙を持って来た。

 そこには『ちょっと出かけてきます ユウマ』と書かれていた。

「アイツ、抜け出したのか?河野がウロウロしているから危ねえって言ったはずなのに……」

 と、弘樹が眉を寄せた。


 その時、ドカンという破壊音と共に家が揺れ、一階からモモさんの悲鳴が聞こえた。

 皆が大急ぎで彼女の元へ駆けつけると、玄関ホールに扉を突き破って飛び込んだバイクと、その側に腰を抜かしたように座り込んでいるモモさんの姿が目に飛び込んできた。

 皆が唖然とする中で、河野がバイクから降りてきた。

「お邪魔しまーす。宝を貰いに来ました」

 ふざけたように言う彼の前に、弘樹が仁王立ちに立ちふさがった。

「手前ぇ、性懲りも無く家にまで乗り込んで来やがったのか?!」

「邪魔すんな。用があるのはそっちの坊っちゃんとユウマだ」

 と、翔太を指さす。


「早いとこ、その宝———金色のキューブを出しやがれ」

 河野の言葉に、翔太がハッと顔を上げた。

「キューブって、あの学校の各所に保管していた物のこと?なぜ、それを欲しがる?何の価値があるんだ?」

「知らねえよ。とにかく俺のボスがそれを欲しがってんだ。坊っちゃんが持っているから奪って来い、ってな」

 言いながら、全く臆せず、むしろ何食わぬ様子でズカズカと上がり込んで来る。

「待て!」

 弘樹は右フックを打ち込んだ。しかし、河野は素早く後退して避けた。それを追って左アッパーを出したが、また避けられた。

 パンチやキックで攻撃するが、河野はそれを全て素手で受け止めた。

 蹴り、突き、全てが当たらない。

 何だ?どうなってやがる。奴の動きが早すぎて目も身体もついて行けねえ。夕方の住宅街で会った時とは別人のようだ。

 突然、河野の身体が目の前から消えた。

 左右を見る。が、いない。

「こっちだ」

 振り向くと、拳を振り上げる河野の姿が視界の端に映った。反射的に腕をクロスさせて防御した瞬間に、ストレートパンチが炸裂する。

 経験したことのない衝撃を受け、弘樹の身体は壁まで弾き飛ばされた。

 ビリビリと震える腕。防御しなければ確実に顔面へ入っていた。

 翔太と明美が駆け寄って、弘樹の体を起こす。

「もう戦うな!逃げよう」

「こいつヤバいって。普通じゃないわ。あれ見てよ」

 河野の鼻は異様に突き出し、瞳が金色に輝いている。口からは涎が溢れ出ていた。

「犬……?いや、ハイエナだ」

 と、弘樹が呟いた。

 異様な姿に3人が怯み、2歩3歩と後退する。


 その時、薙刀を手にしたモモさんが「キエエエ!」という気合いと共に、柄の部分で河野の脇腹を突いた。

「ウグッ!」

 膝から崩れた河野が腹を抱えたまま蹲った。

「坊っちゃん、警察に電話を!」

 モモさんが、玄関ホールの片隅にある電話を指さした。

 慌てて受話器を取った翔太だが、怪訝な表情をして何度もフックスイッチを押した。

「ダメだよ!通じない。電話線が切られている!」 

「では、皆さんを連れて早くお逃げなさい」

 モモさんは薙刀の柄を使って河野の脚をすくい上げ、再び床へ倒した。

「ここは私に任せて。さあ、早く!」

 頷いた翔太が皆を連れて走った。


 台所を抜けて地下の洗濯室へ向かうと、そこには勝手口があった。扉を開けると、目の前には丘陵が広がっていた。

 明け方の白みかかった空の向こうに生い茂る林。そして2キロほど先に、見覚えのある校舎のシルエットが見える。関本家は石野学園の敷地内にあるのだ。

 走る翔太の背後を皆が続いた。裸足のまま裏庭を駆け抜け、牧草地へ向かう。

 数百メートルほど走った先には厩舎があり、4人はそこへ潜り込んだ。

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