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第55話 遠藤の子供時代

 お前は跡取り息子だ。学校では一番にならなければいけない。

 遠藤少年は父親から常にそのように言われて育ち、彼自身もそう考えていた。

 だから、勉強もスポーツも頑張ったし、習い事にも手を抜かなかった。

 我々と一般人とは身分が違うのだから、大きな態度で接するように。と、いう父親からの教えも忠実に守っていた。傲慢だと他人から批判されようが構わなかった。

 そんな彼は、ある一人の男の子を憎んでいた。

 その子の名は関本富一。

 学業やスポーツの成績は上の下くらいだが、明朗活発な性格なのでクラスの人気者だ。女子達が富一に対する評価で口々に言うのは「誰に対しても親切」という言葉。実際、彼は子供ながらにモテた。

 そんな富一が疎ましいと、遠藤少年はずっと思っていた。


「成績はお前の方が上なのに、なぜ、クラス委員長に選ばれないのだ!」

「運動会の応援団長の座を富一に奪われた?馬鹿もの!」

 彼のせいで、父親から叱責され、ベルトで叩かれる。

 日々、彼に対する恨みが蓄積され、ついに行動しようと思い立った。雑木林の奥には使われなくなった防空壕がある。そこへ閉じ込め、こらしめてやろうと計画したのだ。


 その日、昆虫採集に夢中になっている富一を尾行して雑木林へ入り、チャンスを伺った。

 しばらく後をつけて歩き、やがて廃神社へたどり着いたところで、遠藤少年はハッと気がついた。

 ここは、大人達から近付いてはいけないと言われていた場所だ。すぐに引き返そうと思ったのだが、そこで目にしたのは、巫女に手を引かれている富一の姿だった。

 隠し童だ!

 恐怖にすくみ上がった遠藤少年は、腰が抜けて動けなくなった。

「見られたものは仕方ない。あなたも一緒に連れて行くわ」

 彼女はそう言って二人の手を引き、冥界へ連れ去った。

 

 そこは不思議な世界だった。

 隠し童の他にも様々な異形の者達がおり、2人を取り巻いて珍しそうな眼差しを向けていた。

 その世界でしばらく修行生活することによって、オドという超常能力のコントロール法が体得できると説明された。

 富一は隠し童の少女と随分と打ち解け合っていたが、遠藤少年は冥界へ馴染むことが出来ず、修行にも身が入らず、中途半端に終わってしまった。

 

 村へ戻ってきた2人は多くの大人達に囲まれて揉みくちゃにされた。

 カメラのフラッシュ。

 多くの警察官達。

 泣きながら安堵の抱擁をする母親。


 その後、何事もなかったかのように事件は忘れ去られ、彼らは成長していった。

 中途半端な修行ながらもオド制御法を身につけた遠藤少年は、富一に負けたくないがために、超常能力を使ってカンニングや学内選挙の不正を繰り返した。

 やがて父親の事業が失敗。

 プライドが高く貧困生活が我慢できなかった遠藤はオドを使って人々を操り、金を集めて贅沢な暮らしを続けた。

 時代とともに遠藤家は衰退し、大勢の使用人達もいなくなった。

 遠藤は青年へと成長したが、長年に渡ってオドを悪事に使用したため、その身体は徐々にトカゲのような姿になっていった。

 人目を避けるため部屋から出られなくなり、激しい屈辱感を味わう。

 なぜ自分がこんな目に合わなければならないのか。

 幸せも成功も独り占めした富一が憎い。

 隠し童が憎い。復讐をしたい。

 だが、どうやって?


 遠藤に近付く者がいた。平安時代の公家のような白い狩衣を纏った不思議な少年だ。

 彼は子供の可愛らしい声で話しかけて来た。

「堕霊を感じたので来てみたのですが……ひょっとして、あなたは冥界からの帰還者ですね」

「手前ぇは、何者だ?」

「私は初代の隠し童。訳あって二代目と戦う事になり、人間界へ逃れてきたのです」

「へえ。後継者争いかい?向こうの世界も俗っぽいねえ」

「時の経つのは早く、ここへきてから200年以上経ってしまいました」

「そりゃ難儀な話で」

「ところで、私と手を組みませんか」

「あぁ?なんだと?」

「冥界の者どもは敵です。私の気持ちを理解しようともしないあの連中が憎い。あなたも周囲の者達を恨んでいる。復讐計画を実現させるには、絶好のコンビだと思いませんか?」

「ふんっ。急に現れて、何を言っていやがる」

「仲間になりましょう。キューブさえ手に入れば冥界へ戻れます。あなたの思い描いた通りの人生をやり直してみませんか?」

 少年が手の平を差し出した。そこにはビー玉ほどの小さな丸い粒が乗っている。

「これは私が錬成した堕霊の結晶玉です。飲めば今より強くなります」

 可愛らしい赤い唇が、ニィと笑った。

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