第53話 富一について
ユウマは彼らの元に帰る気になれず、そのまま一階へ向かった。
リビングでは、ソファへ座った3名の女子達が談笑していた。
テーブルには大量のお菓子と写真が散らばり、明美とミキはだらしなくジャージを着崩し、モモさんはビールを片手に酔っ払っていた。
「あら、ユウマさん。こっちへいらっしゃい。みんなで昔の写真を見ていたんですよ」
3人はユウマを引き入れ、クッションとジュースを渡すとソファへ座らせた。
ユウマは机上へ散らばる写真の中から1枚を手に取った。
2人の子供が写っている。
キャスケット帽と蝶ネクタイを着こなしているのが翔太で、道着を身に付けてポーズを取っているのが弘樹だ。
小学校くらいだろうか。2人とも可愛い。弘樹は身体が大きいな。それにしても随分と目つきが悪い、とユウマはニヘラと笑った。
「これは坊っちゃんが、小学校二年生の頃です」
「うわっ!懐かしいなあ〜。こんな写真まで残っていたの?」
「いやーん。翔太さんの御曹司ファッション、可愛い~。」
子供時代の写真を次々と見ながら女子達が盛り上がる。
「坊っちゃんのご両親は海外出張が多く、いつも1人で過ごされていました。それを不憫に思った旦那様がこの家へ呼び寄せて共に暮らし始めたのです」
「そうそう。あの頃のこと覚えているわ『学園理事長の豪邸に小っちゃい男の子が来た』って商店街中で噂になっていたから見に行ったのよ。そしたら、本当に小っちゃいんだもん。アッハッハ」
明美とモモさんは手を叩いて大笑いした。
「え?ここは、翔太の家……じゃないの?」
ユウマが問うと、
「翔太坊っちゃんの家、でございますよ」
と、モモさんが答えた。
「正確に言うと関本富一様の邸宅。翔太坊ちゃまは旦那様の甥でございます」
「関本富一というと学園の理事長?つまり、翔太は親族なの?!」
「あれ?言ってなかったっけ?学園理事長=翔太の叔父様=空手のオジサン、よ」
明美の言葉に、ユウマは頭を殴られたようなショックを受けた。
関本富一。
冥界から与えられる富を独占するために、生徒を生け贄として捧げている極悪人。大門と遠藤が抹殺しようと企んでいる人物だ。
だが、3人の話を聞く限りでは、悪人とはとても思えない。彼らは富一を敬愛し、恩人だとも言っているのだ。
何かおかしい。変だ。
「あの……理事長って、隠し童に連れ去られて福を与えられたって噂だよね?それは本当なの?」
ユウマが尋ねると、モモさんは胸を張って答えた。
「もちろんでございます。私は古くからこの石野町に住んでいるので、本当の事だと断言できます」
彼女は缶ビールをグイと飲み干し、講談師のように空き缶でテーブルをコツンと叩いた。
「時は遡ること、今より50年ほど前。石野村に住む2人の少年が忽然と姿を消したのです」
モモさんは一枚の集合写真を摘み上げた。
セピアに染まったそれには、校舎を背景に20人ほどの小学生が写っていた。
「1人は旦那様である関本富一さん」
と、言って坊主頭の少年を指す。
「そして、もう1人は村の庄屋の跡取り息子、遠藤悟さんです」
七三分けヘアに学生帽姿という姿の少年を指差す。
ユウマは思わず「えっ?」と声を上げて写真を覗き込んだ。
大きなギョロリとした目と猫背。そして長い手脚。
この子、遠藤にそっくり……というか、名前も同じだ。
彼は冥界からやってきた妖怪のはず。実際にトカゲ男に変身する姿をこの目で見た。じゃあ、なぜ、ここに写っているんだろう?
もしかして、あの二人は、何かを隠している?
居ても立ってもいられなくなったユウマは、翔太の家を抜け出して学校へ向かった。




