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第52話 弘樹の気持ち

 皆で夕飯を摂ったあと、弘樹と翔太は2階客間の大画面テレビで流行のゲームに興じていた。

 だが、弘樹はコントローラを握りつつも、ぼんやりしていた。いつもなら熱狂し、大笑いしながら楽しんでいるところなのだが、今日は集中できなかったのだ。

 いや、今日だけではない。最近、脳内では一人の人物への思いが大部分を占めていたのだ。

 それはユウマだ。

 何をしていても、頭の中にチラチラとユウマの顔が浮かび、気がつくとその事だけを考えている。

 この感情は一体何なんだ?こんな事は始めてだ、と、戸惑うばかりだ。


 ドカーンという派手な効果音がテレビから流れ、画面を見ると自機が爆発していた。

「どうした弘樹?このステージは得意じゃなかなったっけ?」

 隣で無邪気に笑う友の顔を見て、弘樹は閃いた。

 そうだ。翔太なら物知りだからこの気持ちが分かるんじゃないか?女子達はモモさんの部屋でお喋りを楽しみ、ユウマは入浴中。内緒話には絶好のチャンスだ。

「なあ、翔太」

「なあ、弘樹」

 偶然、同じタイミングで問いかけた2人は笑ってしまった。

「どうした?俺に質問か?」

「弘樹こそ。先に話して良いよ」

「ん。そうか……じゃあ、相談なんだが……」

 弘樹は語り始めた。


 頭の中にユウマの事が頻繁に浮かび上がること。

 はじめはウザい奴だったのに、最近は妙に気になること。

 サンドイッチがとても美味かったこと。

 今日はユウマを助けることができて本当に良かったこと。

 話を聞いている翔太が、ポカンと口を開けていることに気付かず、弘樹は最近の自分の心の中のよく分からない状態について必死に話した。

「ちょっと待って」

 翔太がストップする。そして弘樹にとって衝撃的な一言を放った。

「それは、恋だよ」

「恋?」

「うん。間違いない。恋だ」

 弘樹はまばたきする事を忘れ、翔太を見つめた。

「と、突然何を言い出すんだっ!そんな事はありえん」

 ウォッホンと咳払いを繰り返しながら答える。

「ま、まあ、確かにアイツは一見すると女子に間違うほどの超美形で、笑うと可愛らしいが……でも、ユウマは男だし単なる後輩だ。何やらサンドイッチの件で、一部の女子達が騒いでいるのは知っているが、俺としては気にせず堂々と……」


 饒舌に恋バナを語っていく友の姿を、翔太は苦笑しながら見つめた。

「おっと。弘樹クンから『ユウマは可愛い』の一言を頂きました!」

「お、お前……からかうんじゃねえよ!」

「好きだから気になるし、可愛いと思うんだよ」

「いや、でも、俺達は男同士だし……」

「構わないんじゃないか?大事なのは気持ちさ」

「だ、だが、俺は空手バカだし、ゴリラと呼ばれるほど壊滅的な顔面の醜男だ。たとえ相手が男だとしても、こんな俺の隣を一緒に歩いてくれるとは思えん」

「人は見た目じゃないよ」

「学内三大イケメンと呼ばれるお前に言われても説得力が無ぇ」


「もし、ユウマ君が弘樹の事を好きだって言ったら、どうする?」

「いやいや、想像も付かねえよ……でも、付き合うとなったら、色々と問題があるじゃねえか」

「どんな?」

 照れた弘樹が髪の毛をガシガシと掻き、どもりながら言った。

「ほら……つまり、身体の関係というか……」

「あー、なるほど。好き合った者同士なら、そういう事に発展する場合も考えられるよね。例の薄い本にも、そういう描写があった。背景にバラの花びらが散って……」

「お、俺としては、欲望の処理だけではなく、最後まで責任を取りたい派なんだ」

「責任、というと?」

「やはり結婚や家庭というものを視野に入れる付き合いをだな……」

「男同士でもそういうカップルは世界中に山ほどいるじゃないか。可能だよ」

「それに俺は子供が欲しい。2人ぐらい」

「ゲッ!そこまで考えるの?付き合う=結婚=子供2人か。ロマンチストというか何というか」

 翔太は大笑いした。


「ガキの頃に両親が死んで婆ちゃん一人に育てられたせいか、家庭というものに憧れがあるんだ。仕事を終えた俺が家に帰ると、チビ達が玄関まで走ってきて、嫁さんが台所でメシの支度していて、みんなで晩飯食って、テレビを見て、子供と風呂に入って……」

 幸せそうに夢を語る友の姿を微笑ましく見る翔太。

 それに気がついた弘樹は「エッヘン、オッホン」と照れ隠しの咳払いをして誤魔化した。

「とにかく。俺は、お前達や空手ジジイに恩返しするまで人生修行するって決めたんだ。だから恋愛とか付き合うとか、自分の事は後回しで良いんだ」

 その言葉を聞いた翔太はスッと真顔になり、弘樹を真正面に見つめた。

「それは違う。君が幸せになることも、皆への一つの恩返しなんだ。そもそも僕達は親友だろう?もう、恩なんて言葉を使うなよ」

「くそっ。イケメンは言うこともイケメンだな」

 照れながら翔太の胸を小突く。

「ところで、お前の話は何だったんだ?聞かせろよ」

「え、僕の?……ええと。忘れた!」

 3DCGモデリング解析の事を、思い切って話してみようと思ったのだが、弘樹の恋バナの件で言い出すことが出来なくなってしまった。


 2人はゲームをしていたことを忘れて語り合い、ドアの向こうに風呂上がりのユウマが立っている事には気付いていなかった。

 結婚。家庭。子供。弘樹の言った言葉が、ユウマの頭の中でぐるぐると回っている。

 下腹部にそっと手を当てた。

 この中には卵巣と子宮があるって隠し童が言っていたけど、好きな人の子供を産む事が出来るのかな……。

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