第51話 真実を告げる勇気
「まあ。どうしたんですか、みなさん?」
息を切らしながら大急ぎで玄関へ駆け込んできた5人を見て、モモさんが目を丸くして驚いていた。
彼女は古くからこの屋敷に住み込みで働いている家政婦だ。100キロを超える巨体と濃い化粧は、訪問者へ強烈なインパクトを与え、忘れられる事はない。
家事全般は万能であり、秘書並みの記憶力と洞察力を持っている人物だ。
「泥だらけじゃないですか!?あらあら制服も破れて……まさか、喧嘩でもなさったんですか?」
「えへへへ。ちょっと暴れたかも……」
翔太が愛想笑いをしながら頭を掻く。
「もう子供じゃないんですから、しっかりなさってください。明美さんも弘樹さんもですよっ」
お母さんのようにキツく叱るモモさんを前にして、3人は子供のようにシュンとなった。
「さあさ。手を洗ってください。ご飯の時間ですよ」
モモさんが巨体を揺らしながらパタパタ消えていくと、皆は広い玄関ホールで「はぁ」と息を漏らしながら座り込んだ。
「むかつくわ、あの河野ってヤツ!一体、宝って何のことよ?!」
「お金の事じゃないですかぁ?」
「確か、髑髏というチームって言っていたね。外出の時には気を付けた方が良いな」
「すまない。俺がもう少し早く来ていればこんな事には……」
「弘樹が謝る事じゃないよ」
「奴め。きっと神社での仕返しのつもりだろうな」
弘樹は拳を握り、悔しそうに左の手の平へパチンと当てた。
「やはりあの時、徹底的にぶちのめしてやれば良かった。そうすれば……」
「あらぁ?ゴリラが喋っているわぁ」
子供のような甲高い声に話の腰が折られ、弘樹が呆気にとられたようにそちらを見た。
「んもう、いやだぁ〜。ゴリラじゃなくて人間だったわ〜。でも、ちょっと可愛いかもぉ」
ミキが身体をくねらせながら弘樹の頭を撫で、ケラケラと笑う。
「……誰だ、この女子は。いつからここにいる?」
弘樹が問うと、翔太が苦笑いしながら言った。
「新入部員の三浦桃姫さんだよ」
「ちゅーっす。ミキだぉ。よろしくお願いしゃぁすぅ」
目の前でピースサインを出す。
キャピキャピとした雰囲気に着いていけない弘樹が、まるで新種の生物を見るかのような目つきになり、何も返答できないまま数秒間の沈黙が流れた。
翔太がパチンと指を鳴らした。
「よし!終わったことは忘れよう。そうだ。今夜はみんなでウチに泊まっていきなよ。ほらほら、カゲちゃんもそんな顔しないで」
ユウマは、その明るい呼びかけに応えられなかった。沈痛な面持ちのまま俯き、唇を噛む。
「オレが悪いんだ。オレのせいで、みんなを巻き込んでしまった……オレがもっとしっかりしていれば……」
明美とミキがユウマの肩を抱き、励ますように言った。
「ウチら友達でしょう。一人で抱え込んじゃ駄目よ」
「そうそう。困ったことがあったらミキに何でも相談してね」
友達。
その言葉がずっしりと重く心の中へ響く。
オレは泥棒を繰り返し、今回の隠し童騒動の原因を作った悪者だ。こんな自分を友達として認めてくれるのか?
罪悪感で胸のあたりが締め付けられる。いっそのこと、ここで全てを告白してしまいたいという気持ちになった。
「あの……オレ、本当は……!」
言えない。
肝心な所になると、怖くて言葉が詰まる。そのうちに涙が出てきた。
「オレ……オレは……」
必死で涙を拭こうとしたが、ボロボロとこぼれてくる。
ユウマの背中を撫でて慰めていた明美とミキだったが、なぜか一緒になってオイオイと泣き出してしまった。




