第47話 明美の気持ち
明美が中学2年生の頃、新1年生として入学してきた翔太は女子生徒に人気があった。
イケメンで優しく、そのうえ実家が金持ちなので女子には格好のターゲットだ。
明美にとっては学校中にライバルが出現したようなもので、毎日の登校がまるで戦場へ向かう兵士のような気持ちだった。
「翔太は私の幼馴染で、命の恩人。そして私の王子様なの。だから、彼の隣にいるのは常に私でなくちゃいけないのよ」
幼い頃からそう思い続けてきた明美だったが、周囲の女子達にはそんな思いなど伝わるはずもない。だからとても焦った。
そこで考えたのがギャルメイクだ。
派手な格好をして少しだけ悪ぶりながら翔太の側にいるだけで、普通の女子は怖がって近づかないだろうと考えたのだ。
実家が美容室だったことも幸いして “変身 “ にはさほど苦労しなかった。両親や教師からは不良娘だなどと言われたが、そんな事には構っていられない。したたかに擦り寄ってくる女子達から翔太を守りたい一心だった。
効果は絶大。
明美がギャルになってからは、女子達からのアプローチは無くなり、翔太の周囲には平穏が訪れた。
自分は勝利したと明美は喜んでいた。
だが、今度は別の大きな問題が発生した。
翔太の中学卒業後の進学先は、石野学園だと既に決まっていたのだ。
もちろん明美も同じ高校へ行きたいと願ったが、商店街の小さな美容室を営む両親には、学費を納めるほどの余裕は無かった。
明美は三日三晩泣いて過ごした。
だが、それに救いの手を差し伸べた人物が空手のオジサンだった。
特別奨学金制度と成績優秀者奨学金制度を組み合わせると初年度の学費が免除される、と調べてくれたのだ。
さらに、入学後も成績上位をキープし、生徒会活動を行う事により3年間の学費免除制度もある、とも教えてくれた。
希望を見つけた明美は猛勉強した。
中の中だった成績が、あっという間に上位へ食い込むようになり、2年生の最後には、ついにトップへと躍り出た。
一足先に石野学園へ入学した明美は予定通り生徒会へ入り、学内選挙で会長の座を獲得した。
ギャルという見た目だが、それを裏切る真面目さと優秀な成績、そしてコミュ力の高さとトーク力で学内外を問わず有名人となった。
1年遅れで石野学園へ入学した翔太は、美少年から美青年へと進化し、背丈もあっという間に明美を追い抜いてしまった。
彼は学内三大イケメンと呼ばれ、高校でもモテた。
だが当の本人はそんな事を気にもせず、むしろ女の子などそっちのけで、科学工作部を立ち上げ自分の趣味の世界に没頭した。
明美は安心した。
近寄ってくる女子には目もくれず、興味のある事に突き進んでいく姿は子どもの頃のままだ。
だが、パソコンや難しいメカとにらめっこしている時間が長い。きっとやりたいことが沢山あるのだろう、と思ったが、それが少し不満だった。
本当は自分だけを見つめて欲しい。
ギュッと身体を抱きしめてほしい。
そして耳元で愛の言葉を囁いてほしい。
明美はずっとそれを待っていた。