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第46話 サンドイッチ

 翌日。

 ユウマは一時間目の終わりに弘樹の教室へ走り、彼の前へ大きなバスケットを差し出した。

「ん?なんだ、これは」

 不思議そうに首をかしげる弘樹がフタを開けると、そこにはサンドイッチが詰まっていた。

「昨日は危ないところ、助けてくれてありがとう。これは、その、お礼なんだ……」

 照れくさそうに下を向いたユウマが、逃げるようにその場から離れる。

 渡されたバスケットと、廊下の向こうへ遠ざかるユウマの姿を交互に見ながら、弘樹は惚けたように立ち尽くしていた。


 朝早くから作ったサンドイッチだ。

 他人に対して何かをしたい、と、こんなに強く思ったのは初めてで、作っているときには妙な幸福感があり、とても楽しかった。

 変に思われないだろうか、ちゃんと食べてくれるだろうかと不安だったが、放課後、恥ずかしさをしかめっ面で隠した弘樹が完食したバスケットを返しに来た時には、飛び上がるほど嬉しかった。

 この一連の出来事は、もちろん他の学生達に目撃されており、一瞬でその話題が校内を駆け巡った。

 漫画研究会の女子達が狂喜するネタとなり、学校祭の物販企画に向けて急遽、

『俺とお前のラブパッション サンドイッチ編』

 の制作が開始される事となった。


 翌日の昼休み。

 多くの生徒達に紛れるように、女子生徒姿に扮したユウマがラウンジにいた。

 近くのテーブルに座る女子達がヒソヒソと話し、付近を歩く男子達もチラチラとその姿を見る。

「あの美少女は誰だ」

 と、皆が話題にしているのだが、当のユウマはそんな事を気にもせずに、黙々と文庫本を読みふけっていた。

 実際には読書を装いながら壁の配線に手を触れ、意識をカメラへ繋げているのだが、周囲の者達には分かるはずもなかった。

 ユウマの脳内には、天井から見下ろしたラウンジの映像が映し出されている。

 遠くの方に、弘樹の姿が見えたのでズームアップする。

 彼は購買で買ったオニギリや焼きそばパンをテーブルに乗せ、空手部の友人達と談笑しながら食べていた。

 ユウマは自宅でも通学中の路上でも、そして授業中でも弘樹の事をボンヤリと考え、おんぶされた時の事を思い出すようになった。


 腹の辺りにある結晶は、あれからずっとオドを放出している。

 それ以来、ユウマの心には感じたことのない気持ちが芽生えていた。それは心地良いような、もどかしいような、恥ずかしいような、言葉では言い表せないものだった。

 ラウンジのガラス窓に写る自分の顔を見る。

 今日は少しだけリップの色を濃くし、眉毛も整えてみた。

 黒髪ウィッグの先端を指に絡め、もてあそぶ。

 こんな自分の姿を弘樹が見たら、どう思うだろうか。いや、彼ならば化粧のことよりも、こう言うに決まっている。

『手前ぇはあの時のハイキック女子!?ぜひウチの空手部に!』

 ユウマはそんな弘樹の姿を想像して、1人で肩を振るわせて笑っていた。

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