第44話 襲って来た河野
「イケメン君はどこだ?さっきまで、一緒にいただろう?」
ユウマは訝しんだ。こいつが翔太に何の用があるというのだ。何の接点もない二人が。
「翔太は帰った」
ユウマは作業を続けながら事務的に答えた。
河野は辺りをキョロキョロと見渡し、間延びしたような声で、ふうんと答えた。
「じゃあ、翔太を探しに行く前に、お前に相手をして貰おうかな」
河野の手がユウマへと伸びてくる。
「な、何だよ。近寄るな」
「連れねぇな。ちょっとくらい話をしようぜ」
「嫌だ!なぜオレを付け回す?もう構わないでよ!」
ユウマは一歩二歩と後退した。
その時、河野の様子がおかしい事に気づいた。視線は虚ろで焦点が定まっておらず、口の端から涎が垂れている。
「イケメン君や空手男と仲が良いそうじゃねえか。アイツらと付き合っているのか?」
「お前に関係ないだろう!」
「うるせえ!俺の方が良いに決まってら」
顔を真っ赤にしながら怒鳴り、ジリジリとこちらへ近寄って来る。間合いに入ってきたら容赦なくキックをお見舞いしてやる、と、ユウマは構えた。
「俺はなぁ……俺は、お前の事が好きなんだ。ずっと好きだったんだ!男でも女でも構わねえ」
突然の告白に、ユウマの口がポカリと開いた。
好き?
言っている意味が分からない。オレのことを散々馬鹿にして嫌がらせばかりしていたのに、好きだって?
「俺のモノになれば色々な物を買ってやるし、俺のチームのサブリーダーの地位も与えてやる」
「じょ、冗談じゃない。誰がお前なんかと!」
逃げようと走ったユウマの手を河野が掴み、そのまま乱暴に抱きしめた。
「へへっ!良い抱き心地だ……柔らけえ尻だぁ」
「や、やめろ!触るな!」
「俺と付き合えよ。俺のものになれ」
河野の顔が接近してきた。タバコの臭いが混じった口臭が顔にかかり、吐きそうになって仰け反った。
「イヤだっ!」
素早く振り上げたユウマの右肘が河野の顎へ入る。
「ギャッ」
悲鳴と共に河野が倒れた。
その隙に逃れようとしたユウマの足首を河野が掴んだ。バランスを崩して転び、膝を地面へ打ち付けてしまった。
激しい痛みで悶絶しているところへ、河野が覆い被さってきた。
盛りのついた獣のようにギラつく目と荒い息。ユウマは念動力を使おうと右手を向けた。