表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/116

第43話 翔太だけが知っている

 放課後。

 ユウマは科学工作部の作業台で壊れたセンサーの修理を行っていた。

 ちらりと正面に視線を移すと、翔太がノートPCに向かっている姿が見える。

 どうしよう。

 と、ユウマはずっと考えていた。 彼から4つ目のキューブを盗み出すなんて無理だ。バレたらせっかくの信頼が崩れてしまう。

 そもそもキューブを持っているのかどうかも分からないんだ。

 友達関係を守りつつ大門の要求に応える方法など、いくら考えても出てこない。

 いっそのこと全て白状してしまおうかと思ったが、ユウマにその勇気は無かった。全てを曝け出せば同時に全てのものを失うからだ。

 両親もなく、ばあちゃんが亡くなり、金もない。もう自分には何も残っていないと思っていたが、まだ失って困るものが心にある事を発見し、ユウマは戸惑っていた。


 ふと翔太の視線がこちらに向けられている事に気がついた。

「……オレの顔をジッと見ているけど、どうしたの?」

 何だか気持ちを見透かされているような気がして、恐る恐る問いかける。

「え?い、いや。何でもない」

 翔太は慌てて愛想笑いで誤魔化した。


 彼の前のノートパソコンでは、3DCG処理されたハイキック女子の顔が表示されていた。

 ゆっくりと回転する少女のポリゴンモデルはユウマの顔そっくりで、AIも『景安ユウマとのマッチング確率92パーセント』と結論を出している。

 翔太は迷っていた。

 このことを本人へ告げ、真相を聞き出すべきなのだろうか、と。

 入部当初は表情も硬く弘樹と喧嘩もしていたユウマだったが、今では皆とも打ち解けているし、部活動にも楽しそうに参加している。

 翔太にとっても大切な友人の一人であり、後輩でもある。この関係にヒビを入れたくない。


 やっぱり明美と弘樹に相談してから決めるべきだろうか?いやいや。自分の発言ひとつで、あの2人もユウマを見る目が変わってしまうかもしれない。

「ううむ」

 翔太は唸り、腕組みをして考え込んだ。

 仮に、神社で出会った女子生徒がユウマだとする。じゃあ、なぜ隠し童と戦っていたんだ?パンやキューブを狙う隠し童を退治していた、とか?

「ううむ。ううむ」

 翔太が頭をガシガシと掻きむしり、急に立ち上がるとユウマに向かって言った。

「もう、考えるのを止めた。一緒に気分転換へ行こう」

「え。どこに?」

「学園神社さ。昨夜の出来事を教訓に、更にセンサーを追加したいんだ」

 そう言ってモジュールの入った紙袋を掴み、強引にユウマの手を引くと校庭林へ向かった。

 

 夕暮れが近づいてきた神社では、ひぐらしの鳴き声が響いていた。

 縁結びとしても有名な神社なので、この時刻になると散策する学生カップルを良く見かけるが、今日は誰の姿も無かった。

「あの……」

 言いかけた翔太が、そのままユウマを見つめる。

「ええと、実は……」

 語り始めて、また頭をガシガシと掻く翔太。

「い、いや……あの。工具箱を忘れたから取りに行ってくる。先に始めてくれ」

 取り繕うように言うと、足早にその場を去っていった。

 ユウマは彼の背中を見つめながら「今日の翔太は変だな」と、小首を傾げた。


 さっそく作業を始めた。

 木の幹や鳥居、鎮座する2体の狛犬などにセンサーを取り付けていく。

 そして、数分が過ぎたころ誰かが背後に立つ気配を感じた。

 翔太が戻ってきたと振り返るが、そこにいたのは河野だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ