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第40話 学園神社にて

 ユウマは昼休みの廊下をトボトボと歩き、そのまま中庭へ出た。

 初夏の陽光が降り注ぐ西洋風の庭だ。

 芝生の緑が眩しい。本当なら爽やかな気分でこの光景を眺めるのであろうが、今はそんな気持ちになれない。昨夜から続いている体調不良も手伝い、ユウマの心は混乱していた。

 翔太からキューブを奪え?連れて来い?

 そんな事をすると、自分が学校を騒がせている怪盗だって事がバレてしまうじゃないか。

 でも、残されたキューブは後一つ。願いが叶えば———普通の人間になれれば、オレの事を誰も知らない土地へ行って、一からやり直す事ができる。

 あれ?

 そもそも普通って何だ。願いが叶ったあと、男になればいいのかな。それとも女だろうか。

 ああ、何だか分からなくなってきた。

 ユウマは近くのベンチに座ると大きく溜め息をついて俯いた。

 

 ふと、視線を感じて辺りを見た。芝生に座るカップルや、東屋で読書する女子生徒の姿が見える。

 その向こう。巨木の傍らに誰かいる。あれは……?

 ギョッとした。

 隠し童だ。こんな昼間に、しかも人目の多い時間に出るなんて。

 彼女はジッとこちらを見ていたが、急に身をかがめるポーズをとると、煙のように消えてしまった。そして次の瞬間、目の前に現れた。

 突然のことに驚き、ヒュッと息をのんだユウマが硬直したように動けなくなる。その手を隠し童が掴んでグイと引っ張った。

 途端、2人はその場から消えてしまった。


 まるでジェットコースターに乗っているような強い遠心力と、強風のような轟音が響き、ユウマは耐えきれず耳を塞いだ。

 急に周囲が静かになり、目を開けると学園神社の境内にポツンと立っていることに気付いた。

 一体、何が起こったのだろう。自分は夢を見ているのか?

 さわさわと木々の枝ズレの音が聞こえ、生い茂る葉の隙間から青空が見えた。

「景安ユウマ」

 名を呼ばれ、振り返ると自分のすぐ隣に巫女姿の少女が立っていた。

 無表情でこちらを見上げるその瞳は、昨夜と同じように赤く光っている。袖口から覗いている小さな手の爪が、アイスピックのように鋭く伸びた。

 ユウマは逃げようとした。だが、一歩後退した次の瞬間、彼女の姿が消え、ほぼ同時に背後から強く羽交い締めにされて、地面へ座り込んでしまった。


 鋭い爪が喉元に当てられ、少女の凄んだ声がすぐ耳元で聞こえた。

「昨夜は不意を突かれたけど、今回は同じようにはいかない。騒げば突き刺す」

 動きを封じられ、ユウマの全身には鳥肌が立ち、汗が噴き出た。

「ダイモンが念動力の使える者を味方にしているとは、思ってもいなかった。3つ目のキューブが奪われた以上、あなたの正体を明かした上で、その後の対応を決める必要があるわ」

 ユウマは必死で抵抗しようとしたが、ピクリとも動けない。少女とは思えないほどの怪力だった。

「や、やめろ。放せっ」

「ダメよ。大人しくしなさい」

「放してってば!」

 ユウマが怒鳴ると、少し離れた場所にあった賽銭箱が30センチほど浮き上がり、ドスンと落ちた。

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