第39話 ハイキック少女の画像
「ついに恐れていたことが起こったのよ」
科学工作部では、明美がふて腐れたように昼休みの出来事について語り、翔太と弘樹は困ったような顔つきで、その話を聞いていた。
会長である明美は、学校祭準備会議の開催について知らせようと、実行委員達を召集した。
だが、生徒の多くは隠し童の出現を恐れ、集まったのは———
「全体の4分の1よ?こんなんじゃ、何も決められないじゃない!」
怒鳴った明美は、机上の湯飲みを握りしめると、お茶をグビグビと一気に飲み干した。
翔太と弘樹は腕を組み、神妙な面持ちでその件についてのコメントを語った。
「謎の泥棒。そして隠し童騒動。ついに第2ラウンジ荒らしが発生……不可解な事件が立て続けに起こったんだ。みんな怖がるのは無理もないさ」
「うむ。壁には穴が空いて10脚以上もある椅子やテーブルがひっくり返っていた。ありゃ、確かに妖怪の仕業だ」
明美がハッと気がついたように彼らを見た。
「そういえば、現場の第一発見者は学生だって聞いたけど、まさか……?」
翔太と弘樹が同時にコクリと頷く。
「実は、僕達が校内を探索していた時に発見したんだよ」
「ああ。夜中の23時ころだ」
「マジ!?」
明美の目が丸くなる。
「センサーの動きを監視していたら奇妙な反応があってね。弘樹と学内を確かめてみたんだ」
「ちょっと待って。そんな夜中にどうやって学校へ入ったのよ?」
「僕らと守衛さんは飲み友達だから、顔パスでOKなんだ」
「ふうん、そうなの……っていうか、いま何て言った?飲み友達ぃ!?」
翔太だったがマズった!と言わんばかりに両手で口を塞ぐ。
「あ、いや。ええと、叔父さんと守衛さんが知り合いで、よく家に連れてきて飲むんだ。賑やかな方が良いからって、僕と弘樹も呼ばれて……」
明美が握り拳を震わせて怒りをあらわにする。
「あのジジイ!高校生になんっちゅう事を……今度会ったらヤキだわ———で、どうだったの?早く続きを聞かせてよ」
翔太の胸元を掴んで揺さぶり、機関銃のように捲し立てる。
「隠し童っぽいのが出た。でも、不可解なのは、その場に女子もいたということなんだ」
「ウチの生徒?」
「うん。暗くて良く見えなかったけど、あの制服は間違いなく学園の女子生徒さ。で、弘樹が蹴られてね。驚いたよ」
「怪我は!?」
「咄嗟のガードで無傷だ。この俺がやられる訳ゃ無いぜ」
弘樹がドヤ顔で答える。が、やがて鼻の下を伸ばしながら、遠い目でポツリと言った。
「ありゃ、見事な上段回し蹴りだった。パンツは白で……」
「パンツ??」
「あ、いやっ。何でもない。こっちの話だ」
「その女子は何者?!」
「実は逃げられたんだ」
「え?!何をやってんのよ」
「僕も弘樹も動揺していたから仕方ないよ。神社の門を開けて、そこに隠し童と向き合う女子生徒がいたんだから」
「それもそうね……で、本当に隠し童だったの?どんな姿だった?」
「そりゃあ、まぁ……子供だったような気がする。服装は言い伝え通り巫女さんっぽかったなあ」
「うんうん。それで?」
「女子生徒が逃げて、その妖怪も消えたんだ」
「あー、もう!例の無音君ドローンはどうしたのよ?」
「もちろん、使ったさ。隠し童を捕獲しかけたけど、網を切られてしまったんだ」
そう言って、刃物のようなもので切られた網を机上へ広げた。
「……ヤバ。隠し童が武器を持ってるなんて、聞いてないし」
明美はそう呟いて黙ってしまった。
「でも、無音君は良い仕事をしてくれたんだ。隠し童と例の女子が戦っている場面の録画に成功したよ」
翔太がマウスを操作すると、ノートパソコンにムービーが映し出された。
上空からゆっくりと降下する一人称視点の映像。画面は暗くノイズも酷いが、夜の神社の様子が写っている。
『くっ!こんなもの……!』という少女の声。
『うわっ!』『おおっ?!』という翔太と弘樹の2人の短い叫び。
画面は激しく揺れ、白く発光する着物の袖と手が画面の端に映った。
明美が食い入るようにそれを見つめる。
「これが、隠し童?っていうか、手しか写っていないし。肝心の本体はどうしたのよ?!」
「まあ、続きを見てよ」
ムービーは進み、制服を着た女子生徒の横顔がチラリと映り、止まった。
「この映像を元に、AIへ命じてハイキック女子の3DCGモデリングを作らせている途中なんだ」
翔太は別のパソコンの画面をこちらへ向けた。女子生徒の横顔を元にした制作途中のポリゴン画像がゆっくりと回っている。それを見た明美が目を丸くして驚いていた。
「マジ凄いじゃん。っていうか、この画像ができたらどうするわけ?」
「AIを使って、全校生徒の顔写真とマッチングするんだ。もちろん犯人捜しじゃなく、事情を聞くためさ。何者なのか。なぜ、隠し童と戦っていたのか、と」




