第37話 正義の泥棒
「君の説明によると、このキューブが科学工作部にあることは知っていたが、無防備な状態で放置されていたから本物だろうかと疑っていた、と。本物であった場合、手柄を独占したかったので黙っていた、と」
ユウマは頷いた。
また嘘をついてしまったのだが、そんなことはどうでもいい。とにかくこの騒動に皆を巻き込まないようにしなければ。
「ケッ。手柄手柄って、お前ぇの頭ん中にゃそれしか無ぇのか?」
遠藤が呆れたように言った。
「つーか、どうして富一は部活棟にこいつを置いたんだぁ?」
「我々がキューブを探しても見つけられない場所、思いもよらぬ場所を選んだ———それが科学工作部へ剥き出しのまま置く事になった理由でしょう」
大門は机上のキューブを掴んで白テープを乱暴に剥がした。
「問題は、なぜ科学工作部を選んだのか、です。我々がキューブを狙っているのは知っているはずなのに、剥き出しのまま部活の部屋へ置く……生徒が危険に巻き込まれる可能性があるのに」
「あの、イケメン野郎と富一に何か関係があるのかもしれませんぜ」
軽くそう語った遠藤だったが、言った後でハッと気がついた。
「もしかすると、石戸谷翔太と富一は仲間じゃねえのか?」
「あり得ます。隠し童の捕獲計画も、我々を欺く為の作戦かもしれません。ひょっとすると4つ目のキューブを持っているかも……」
大門はしばらく考え、そしてユウマを見ると、事務的に指示を出した。
「翔太君の周辺を探って、キューブを隠し持っているなら奪ってください。抵抗するようなら、ここへ連れてきてください」
その言葉にギョッとしたユウマは、思わず声を荒げた。
「待ってよ!翔太をどうするつもり?」
「ほんの少し、話を聞くだけです」
「そんなこと無理だよ。自分たちでやれよ」
「我々が動けば目立つでしょう?学生のあなたの方が都合が良いのです」
大門はユウマの態度に疑問を感じたようで「何か問題でも?」と首を傾げた。
「部活に入ったのは、あくまで調査の為でしょう?まさか、彼らに友情が芽生えたとでも?」
「それは……」
答えに詰まり、立ちすくむ。そんなユウマに優しく語りかける大門。
「君のお陰で3つ目のキューブが手に入りました。あともう少しで最終目標に到達できます。君も願いを叶えることが出来るのですよ」
そして、財布から札を取り出すとユウマの手に握らせた。
いつもより金額が多かった。
「君は正義のドロボウ巫女です。自信を持ってください」
「おうよ。いままで辛いに目にあった分、これからは派手に生きようぜ」
大門と遠藤が微笑む。
ユウマは何も言わずに何度か頷くと、静かに部屋から出て行った。




