表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/116

第35話 念動力の暴走

 記憶の映像が現在から過去へ向かって再生されていく。

「へえ。ダイモンは先生に化けて学校へ忍び込んでいたのね。あら、遠藤も一緒だわ。彼も処分する予定だったので好都合よ」

 隠し童が感心したように言う。

 やがて、記憶は高校入学前へ逆行し始めた。

 酷く苛められていた中学時代と、祖母の死。

 真面目で優しかった空手のオジサン。

 汚くイヤらしい大人達。

 子供の頃の孤独感。

 その時に味わった苦しみや悲しみといった感情までもが脳内を駆け巡る。


 隠し童が険しい表情を見せ始めた。

「念動力?そんなバカな……ありえないわ!それに、男女両性?」

 彼女の握力が増すと同時に頭の中で記憶が飛び交い、ユウマの脳は爆発しそうになった。

「やめろ……やめて!やめてっ!!」

 叫んだ瞬間、隠し童の小さな身体は勢いよく後方へはじき飛んだ。地面にはレールのように伸びる足裏のスリップ跡が描かれている。

「これがあなたの念動力?こんな強い力を持っているなんて?!」


「いやだ!いやっ。いやぁっ!」

 錯乱したユウマが念動力を砲弾のように放つ。木々の太い枝が折れ、社殿の瓦がバラバラと地上へ降り注いだ。神社の境内は、まるで竜巻が来たかのように荒れ狂った。

 隠し童は素早い身のこなしでそれらを避けていたが、ついには瓦礫が勢いよく身体へぶつかり始めた。

「ちょ、ちょっと待ちなさい!落ち着いて!」

 瓦の一つが背中に当たり、隠し童が派手に転んだ。その拍子に、巫女服の袂から何かがこぼれ、ユウマのすぐ足元に転がった。

 3個目のキューブだ。

「ダメよ。それを返して!」

 隠し童が叫び、ユウマへ飛びかかろうとした。


 その時。

 すぐ背後の門戸からガチャガチャという解錠の音が聞こえ、それと同時に上空から微かなプロペラ音が聞こえてきた。

 ハッと顔を上げた隠し童の瞳には、上空に佇むフットボール大の不思議な物体が写った。

 無音君ゼロ号機だ。

 瞬間、そこから網が発射され、隠し童に絡まった。

「くっ!何よ、これ?!」

 しばらくもがいていたが、右手の爪を振り回すと同時に網が切り裂かれた。

 それと同時に戸が勢いよく開かれ、周囲が懐中電灯のLED光に照らされた。

「うわ?!」

「おおっ?!」

 2人の男子の短い叫び声が上がる。

 隠し童は悔しそうにユウマとキューブを一瞥すると、煙のように姿を消した。


 振り返ったユウマの目に映ったのは、翔太と弘樹の姿だった。自分の背丈を遥かに超える弘樹と、涙を溜めたユウマの視線が合い、一瞬だけ時が止まる。

 見られた……!

 この事態に慌てたユウマが、思わず右のハイキックを蹴り出した。弘樹は反射的に左肘で頭部への攻撃をガードした。

 スパン!

 乾いた衝撃音が境内に響く。それと同時に、弘樹が右の拳を突き出し反撃した。

 が、キックの勢いでユウマのスカートが豪快にめくれて下半身が露わになり、間近で見た弘樹の動きが鈍る。

 ユウマはそれを見逃さず、ヒラリと後ろへジャンプすると、顔を隠しながら低い姿勢で敷地内の木々の間を縫うように走った。

「おい、待て!」

 弘樹が追跡しようとしたが、翔太は慌ててそれを止めた。

「やめろ!相手は女子だよ!制服を着ていた」

「女子かもしれんが、見ただろあのハイキック!ありゃ素人じゃねえぞ?」


 ユウマは境内の木を器用に登って塀を乗り越え、一目散に校外へ駆けて行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ