第31話 隠し童との戦い1
22時過ぎ。
住宅街は静まり、街灯と自動販売機の明かりが雨上がりの路面を照らしている。その道をユウマが歩いていた。
黒ジャージにウェストバッグ。そして耳にはワイヤレスイヤホンが装着されている。もし、職務質問されたとしても「ジョギング中です」と言えば怪しまれずにすむスタイルだ。
周囲に誰もいないことを確認したユウマは、素早く裏門の扉へ近づいた。そして、念動力を使うべくキーボックスに手をかけた。
が、躊躇った。
心の中では葛藤が渦巻いていたのだ。
皆で一生懸命作ったセンサーを無断借用し、使った後は破壊しようとしている。
本当にそれで良いのか?
だが、願いを叶えるためには彼らに協力しなければならないし、お金を受け取ったからには働かなくてはならない。
「どうしました?早く解錠しなければ、警報器が作動しますよ」
イヤホンから大門の声が聞こえてきたので、ユウマはハッと顔を上げた。
見ると、少し離れた生け垣の中に大門と遠藤が潜んでいた。スマホの音声チャット機能を使って呼びかけて来たのだ。
キーボックス前で佇むユウマの姿は、既に数台のカメラに捕らえられている。あと数十秒で警報システムが作動して警備員がやって来るだろう。
ユウマは大きく深呼吸すると手の平に意識を集中した。
ケーブルを通して複雑な電子回路の内部へ心が入り込むと、無数の配線の中からシステムへ繋がっているものを探し出し、一時的にダウンさせた。
監視カメラが機能停止し、カチリという解錠の音が聞こえる。
ユウマは大きな木製の扉を押して敷地内へ入った。しばらくして、後を追うように大門と遠藤が裏門を通った。
「ヘッヘッヘ。見事な鍵開けだねえ。一体、どんな道具を使っているんだ?次は間近で見せてくれよ」
遠藤の笑い声がイヤホンから聞こえたが、ユウマは何も答えなかった。念動力で開錠している事を、彼らは未だ知らない。
木々が立ち並ぶ校庭林を、街灯の薄明かりを頼りに校舎まで歩く。
職員玄関を解錠し、大門と遠藤の進入路を確保したユウマは、そのまま屋外を歩いて部活棟へと向かい、科学工作部の窓から室内へと忍び込んだ。
翔太のノートパソコンには、センサー監視ソフトの映像が映し出されている。
「手作りのシステムなのに、ちゃんと稼働しているなんてスゴイな……」
皆と一緒に部品を組み、汗をかきながらセンサーを設置した事を思い返した。
科学工作部へ入ったのは泥棒を誤魔化すための嘘だったのに、いつの間にか皆と会うことが毎日の楽しみになっていた。
罪悪感がジワジワと心へ染みこんでいき、涙がこぼれそうになった。
イヤホンから大門の声が聞こえてきた。
「そちらの状況はどうですか?」
ユウマは袖口で涙を拭くと
「順調だ」
と短く答えた。




