第2話 おとこおんなの妖怪と呼ばれて
「男なのか女なのか分からない。どちらとも言えない」
医者からそう告げられたのは、ユウマがまだ幼少の頃だった。
腹痛で祖母と一緒に隣町の診療所へ行き、検査のために撮ったレントゲンに色々なものが映り込んでいたのだ。
自分の孫が他人と少し違う事は祖母も知っている。だが、今まで何の問題も無く元気に育ってきた事もあり、すっかり忘れていた。
「これはとても貴重なケースだ。視診したいからそこへ寝てごらん」
診察台を指す医者の表情には、妙な笑みが浮かんでいる。
「ネットで公表すれば、我々は有名人になれる。しかも君は可愛いから、タレントになれるかもしれないぞ。芸能事務所にも知り合いがいるから紹介してもいい」
ベラベラと喋り、強引に診察台へ連れて行こうとする医者の目には、欲深い大人の邪光が見て取れ、恐怖を感じた幼いユウマは、咄嗟に右手の平を医者へ向けた。
途端、彼の首にぶら下がっていた聴診器や、胸ポケットのペンが空中に浮かび、まるで宇宙船の内部を浮遊するように漂った。
医者と看護師達があんぐりと口を開けたまま呆然とする隙に、祖母とユウマは逃げるように診療所を去った。
その後「ばけもの」「おとこおんなの妖怪」という悪口が町内に広まり、ユウマの容姿と謎の力を金儲けの手段に使おうと企む多くの大人達が寄ってきた。
それ以来、身を守るために粗野な男子に見られるような仕草や言葉使いを演じる事になった。
友達のいない寂しい子供時代を過ごし、中学では酷いイジメにもあったが、必死に勉強して石野学園高校に合格した。
入学金を支払った祖母宅には僅かな貯金しか残らなかった。
「あたしゃまだ働けるから、気にするんじゃないよ」
そう言って気丈に振る舞っていた祖母だったが、急に体調を崩し、入院して2日で帰らぬ人となった。
幼い頃に両親を亡くし祖母も亡くしたユウマは天涯孤独となり、同時に極貧も襲ってきた。
悲しむ暇がなかった。生きるために必死にアルバイトを探し、何度も面接を受けたが、ユウマの中性的な容姿を珍しがった大人達が、いやらしい行為を目的に金をチラつかせ擦り寄ってくる。
誰も信用できない、みんな悪人だ、と絶望感を深めていった。
そして迎えた4月。
華々しく始まるはずの学校生活だったが、ユウマの心は灰色だった。
カネが無い。
日々の食費すらままならず、昼食の弁当も作れなかった。
3日も食べられない日が続き、空腹の感覚すらも無くなったころ、ユウマはある考えに辿り着いた。
独特の容姿と曖昧な性、しかも奇妙な念動力を持っている……こんな自分は人間であるはずがない。
そう。オレは『妖怪おとこおんな』だ。
これからは、本当の化け物になって妖怪らしく生きてやろう。腹が減ったら盗み、他人から物を奪うんだ。人間のルールなど守らなくてもいい。この容姿と念動力を使えば、簡単じゃないか。
こうして巫女姿の泥棒が誕生した。