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第26話 いじめ、再び

 その日の午後。

 実験教室で行われた理科の授業が終わり、ユウマが自教室へ戻ると、クラスメイト達がこちらの事を気にするようにチラチラ見ていることに気がついた。

 自分の机に、黒文字で大きく『オカマ』とか『妖怪おとこおんな』などと書かれていたのだ。慌てて擦ったが、油性マジックの文字は消えることはなかった。

 やられた。

 実験教室へ行っている間、河野がこのクラスへ侵入して書いたに違いない。どこまで幼稚で卑屈な奴なんだろう、とユウマは怒りで拳をブルブルと震わせていたが、やがて大きく溜め息を吐くと、力が抜けたように椅子へ腰掛けた。


 また以前のように陰湿なイジメの渦へ巻き込まれ、誰一人として味方がいない状況へ陥っていくのだろうか。心の中が暗い気持ちで塗りつぶされ、両肩に重りを乗せられたように身体がだるくなった。

 自席に座ったまま、ぼんやりと窓の外を見ていたユウマは、いつの間にかクラスメイトが帰宅して自分1人になっていることに気がついた。

 細く開いた窓からは夏の初めを思わせる暖かい風が吹き込み、ユウマの長い前髪を揺らした。


「よう」

 呼び掛けられ振り返る。見ると、教室の戸口に河野が立っていた。

 ギョッとした。彼はポケットに手を突っ込んだままゆっくりと歩み寄り、ユウマの前で止まった。そして机の落書きを見下ろすとニタニタと笑った。

「へえ。また虐められているのか」

 ユウマは前髪の隙間から睨み返した。

「お前が書いたんだろ?こんな姑息な真似をするのは、お前しかいない」

「あぁ?!俺がやったという、証拠はあんのかよ?」

 机を蹴飛ばし、チンピラのように凄む河野。

「随分と威勢の良いこと言ってくれるじゃねえか。ひょっとしてアレか?『もう、僕は中学の時とは違うんです』てか?高校デビューってやつか?」

 ユウマは立ち上がって臆することなく言った。

「お前こそ、いつもの取り巻き連中はどうした?以前のように集団でオレを殴ったり蹴ったりしてみたらどうだ?ああ、そうか。お前一人じゃ落書きくらいしか出来ないのか。不良の真似しているだけの小物だもんな?」

 河野の顔がみるみる赤く染まっていく。

 彼はユウマのネクタイを掴むと「手前ぇ、生意気だぞ」と、凄んだ。

 その時、教室のドアを開ける音が聞こえた。

「おい、そこにだれかいるのか?下校時間は過ぎているんだぞ」

 巡回の教師だ。

 河野はビクリと身体を震わせ、素早くユウマの襟首を離した。

 2人の間に流れる嫌な雰囲気を感じ取った教師は「どうした?揉め事か?」と、眉間にしわを寄せて近づいてきた。

 ユウマは自分のバッグを手に取ると、河野の横をすり抜けるように逃げた。

 

 ポロポロと流れてくる涙を袖口で拭う。

 誰かに会いたい。

 ユウマは科学工作部へ向かった。

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