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第23話 ユウマ、薄い本に描かれる

 ある日、ユウマがラウンジで昼食を取っていると、誰かに呼びかけられた。振り返ると、トレーを手にした翔太と明美がいた。

「やあ、カゲちゃん。一緒にランチしないかい?」

 翔太が白い歯を見せて爽やかに微笑む。

「う、うん。いいよ」

 まだ緊張が残っているせいか、はにかんだような仕草と表情になってしまう。それを見た明美がぐりぐりとユウマの頭を撫で回した。

「もーっ!カゲちゃんったら、なに?その神スマイル。召されそう!」


「お前ら、何をやっているんだ?」

 背後から太い声が聞こえて振り向くと、弘樹が立っていた。

「何って、カゲちゃんを可愛がっていたところ。ほら、アンタも撫でてみ?」

 はしゃいでいる明美の言葉には反応せず、ムスッとしたまま近くの椅子へ乱暴に座る。そして鞄の中から数冊の薄い本を出して机上へ投げた。

「こいつを読んでみろ」

「なにこれ。漫画?」

 明美が手に取ると、翔太とユウマが左右から覗き込んだ。

 タイトルは『俺とお前のアバンチュール』だ。表紙には2人の男子高校生が抱き合っている姿が描かれている。

 少女漫画のように繊細な絵で、1人はバラの花を咥える美青年、そしてもう1人はワイシャツの前ボタンが外れ、首からヘソまで露出した美少年だ。

「登場人物が科学工作部の部長と、新入部員……ひょっとして僕とユウマ君?」

 翔太の言葉に、眉間にしわを寄せたままの弘樹が軽く頷いた。

 無邪気な超絶美少年の行動に翻弄される部長であるが、徐々にお互いが惹かれ合い、やがて肌の露出度合いが高まり、抱き合い、そして……。


「どうよ?」

 厳しい表情の弘樹が、ぶっきらぼうに問う。

 3人は同時に顔を上げて、それぞれの感想を口にした。

「どうって、その、けっこうリアルな描写が多いね。色々と」

「きゃははっ!これ超ウケるわ『俺の極太LANケーブルを、お前に接続させる』って……ププッ」

「キミが描いたの?」

 弘樹に向かって真剣な表情で問うユウマ。それを聞いた明美が盛大にコーヒーを吹き出した。

「ナイスボケ!カゲちゃん、いい天然っぷりだわ!」

 ゲラゲラと大笑いする明美。その隣では赤鬼のような形相になった弘樹がブルブル震えていた。

「この俺が描く訳ないだろう!」

 ドン!と机を叩く弘樹。

 ラウンジにいる他の学生達が、一斉にこちらを見た。

「描いたのはマンガ研究会の腐女子共だ。女子空手部の後輩が持っていたから借りてきたんだよ。校内で密かに販売され、たいそうな売れ行きだったらしい」


 ユウマの手からマンガを奪うように取り上げた弘樹が低い声で呟いた。

「お前が馴れ馴れしく翔太へ近づくから、こんな漫画の題材にされちまったじゃねえか。翔太は金持ちでイケメンで優秀なやつだが、世間知らずでお人好しだ。俺は自分のダチが馬鹿にされたり、ネタにされるのを黙って見ていられない」


 そこまで言うと、一呼吸置いてからさらに低い声で言った。

「この際だからハッキリ言おう。お前は、鍵のかかった科学工作部へ入ってきた事があったよな?しかも、金色のキューブを狙っていた。学校を荒らす怪盗は、お前だろう?部活動に参加するフリをして捕獲システムを破壊しようと企んでいるんじゃないか?人畜無害を装って翔太に近づき油断させて、金目の物を盗むつもりじゃないのか?」

 弘樹が鋭い眼光と共にギロリと睨んだ。彼の太い人差し指が、ユウマの鼻先へ向けられた。

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