第22話 ユウマ、あだ名をつけられる
孤高の貴公子。
超絶美少年くん。
ユウマに付けられたあだ名だ。もちろん本人は知らない。
女子に見間違うような美貌や、近寄りがたい雰囲気、いつも静かに本を読んでいる姿から、そのように名付けられたのだ。
クラスメイト達からは、ユウマは大人しく無口な性格だと見られているが、決して無愛想ではなく、話しかけると会話をするし笑顔も見せる。それがとても可愛いと女子達の心を掴み、SNS上では学内で隠し撮りされた写真がやりとりされていた。
貴公子様のペンケースに、可愛らしいファンシー文具を発見。
カバンに、ゆるキャラのキーホルダーがぶらさがっていた。
学校帰りに、子猫とお戯れになる貴公子様。
などと、数々の発見・目撃情報が写真と共に書き込まれ、それに合わせて多くの反響があった。そんな貴公子が科学工作部へ入ったという噂が学内に流れると、多くの女子達がざわついた。
放課後、いそいそと部室棟へ向かうユウマと、それを優しく迎える翔太の姿が目撃されるようになると、SNSでは今まで以上にその話題で持ちきりになった。
学内三大イケメンと呼ばれる部長と超絶美少年の新入生。いけない妄想をするには十分すぎるネタであった。
周囲から注目されているなどとは思いもしないユウマは、隙あらばキューブを盗んでやろうという目論見を抱きつつ、部活動へ参加していた。
しかし、活動は想像以上に忙しく、思惑通りにはいかなかった。
センサーの定時点検や、録画画像の解析、IT室の機材修理の依頼も請け負うなど、まるで学内に存在するパソコン業者のような多忙ぶりで、部室にはいつも誰かがいてキューブを盗み出すなど不可能だった。
翔太はおっとりしている性格で、いつも優しかった。
教え上手で的確にアドバイスし、質問には嫌な顔一つせずに対応し、ユウマを何かと気遣った。
ときどき部室へ来る明美も面倒見が良く、ノリも良かった。
機関銃と言われるほどのお喋り好きだが、同時に聞き上手でもあった。一緒に話しているうちに、なぜかカラオケへ行くことになっていた、なんてことも一度や二度ではない。
翔太はユウマのことを真面目で働き者の良い後輩だと喜び、明美はまるで弟ができたかのように可愛がっていた。
今まで普通の学生らしい経験をしたことが無く、部活もカラオケも初めてのことだったし、中性的であるという自分の外見も気にされずに優しくされたので戸惑うことも多かった。
ユウマは今まで感じたことのない喜びと充実感を得て、キューブを盗み出すという本来の目的を忘れ、学校生活の楽しさを満喫する日常に慣れ始めていた。
ところが、弘樹だけは違った。ユウマと会話することもなく、まるで監視するかのように、いつまでも疑いの目を向けていたのだ。