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第16話 隠し童と大門

 大騒動の翌朝、ユウマはいつも通りに登校し、ごく普通の生徒であるように振る舞った。

 犯人が自分だとバレているのではないか、と気が気ではなかったのだが、コソコソしている方が逆に目立つと考えたのだ。

 生徒達で行き交う朝の廊下を歩いていると、自分の名を呼ぶ声が背後から聞こえた。

 振り返ると、そこに遠藤がいた。作業着姿の彼は、ホウキを手に床のゴミを丁寧に掃き集めている。

「教官室へ……」

 こちらを見ずにボソリと言い、去っていった。

 

 社会科教官室には、いつもの微笑を浮かべて自席にいる大門と、怒りの表情でソファに座る遠藤がいた。

「随分と派手にやらかしましたね」

「おいっ。バレたらどうするつもりだ?!」

 優しい口調と怒声が同時に耳をつく。

 ユウマは仏頂面で答えた。

「ふん。二人とも偉そうに説教するつもりか?オレがいないと盗めないくせに」

「このガキめ。生意気だぞ」

 拳を握った遠藤が立ち上がった。

「手前ぇが警察にパクられたら、俺達だって危なくなるんだ」

 ユウマはムッとした表情で、唇を突き出した。

「あの時は逃げるしかなかったんだ。隠し童みたいなものに追いかけられたから……」

 ピタリと動きを止めた彼らが「何だと?」と呟いてユウマを見つめる。

「本当さ。噂通り巫女の姿をしていたよ。オレの事を大門と間違えたみたいだ」


 目を細めた2人が、しばらく無言のまま見つめ合い、そして静かに頷いた。その不穏な様子に、何かマズイ事でも言っただろうか、とユウマは困惑した。

「ついに動き始めましたぜ」

 ボソリと呟く遠藤。大門がそれに「うむ」と応え、机上のマグカップを掴むと一口啜った。

「今の話から推察すると、どうやら私を待ち伏せしていたようですね」

「鍵を開けると奴に報せが行くような罠を仕込んでいたかもしれませんぜ」

「小癪な真似を」

「旦那自らが動かなくて正解だったぜ。一個目と二個目のキューブを簡単に盗ませた後、理事長室の罠で仕留めようとしていたんだ」

「二つのキューブは噛ませ犬だったという訳か」

「これからも旦那は表に出ない方が良いですぜ。せっかくの変装がバレちまったら元も子もない」

「うむ。キューブが揃えば、奴を超える力が手に入る。それまでの辛抱だ」


 まるで自分の存在を忘れてしまったかのように、2人だけで話を進めている事にユウマは苛ついた。

「おい。何の話をしているんだ?」

 その呼びかけに大門はゆっくりと振り向き、ユウマを見下ろして静かに言った。

「君はキューブの探索を急いでください。ですが、しばらくの間は夜間の行動は控えた方がいい」

「昼間にドロボウなんて無理だよ」

「そこは何とかするのです。さあ、今日はもう帰りたまえ」

 数枚の万札をポケットに押し込まれ、何かを言う間もなく廊下へ追い出される。

 バタンと閉まるドアを見つめ、ユウマは口を尖らせて文句を言った。

「ちぇっ、何だよ!無理な事を言うなっ!」

 だが、ドアの向こうからは何の反応もなかった。

 

 その数日後。

 いつものようにラウンジで昼食を取っていたユウマが、ふと隣席のイスに視線を落とすと、一枚の印刷物が置かれていることに気がついた。誰かが読み捨てた学校新聞だ。

『隠し童の捕獲作戦が決定』

 そんな見出しが目に飛び込んできて、思わず手に取った。

『隠し童が目撃された影響で生徒の恐怖心が伝染し、課外活動が停滞。学校祭の成功を切望する生徒会が捕獲作戦を企画し、科学工作部へ実行を依頼した』


 ユウマは新聞を強く握りしめた。

 ほとぼりが覚めた頃にキューブ探索を再開しようと思っていたのに、こんな余計な事をされては、たまったもんじゃない。下手をすると、自分が捕まってしまうじゃないか。

 ユウマはさっそく学内サーバーへ意識をつなげ、科学工作部についての情報を収集した。

 すると、学校新聞のバックナンバーの記事を見つけた。

『捕獲システムを使ってアライグマをゲット』という見出しの下に、泥だらけになった3人の写真が掲載されている。

 イケメンと凶悪犯とギャル。

 石戸谷翔太が部長。他の二人は幽霊部員らしい。

 塩崎弘樹は空手部員。キングゴリラというあだ名の通り凶暴な人物で、学外で何度か暴力事件を起こしている。

 石田明美はギャルの生徒会長。明朗快活で人望が厚い。 

 アンバランスな3人だな、とユウマは何度も写真データを見返した。

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