最終話
ユウマが起動したスターゲートにはタイムリープが付加されており、3人が戻ったのは出発した日の夕刻だった。
そして、歴史が少しだけ変わっていた。
馬達は厩舎で静かに草をはみ、翔太宅の玄関にバイクは突っ込んでいなかった。
ぼんやりとその光景を見つめた彼らは、それぞれの自宅へ帰ってぼんやりとしたままの週末を過ごした。
夢でも見ていたのでは?と彼らは思ったが、体得したオドがそれを否定した。
翔太は持っただけで本の内容が分かるし、電気製品の故障個所も瞬時に判断できた。弘樹の瞬間移動も健在。明美の作る料理は家族の舌を蕩けさせた。
3人は何事もなかったかのような日常へ戻った。
大門や遠藤が学校にいた形跡は一切無く、河野はバスケットボール部に所属する背の高い普通の男子高校生だった。
弘樹が彼にユウマの事を尋ねると、
「ああ、そういえば同じ中学校にそんな名前の子がいたっけかな?」
と、爽やかな笑顔で答えた。
学園は平和そのものだった。
弘樹は空手部へ復帰し、黙々と練習へ励んだ。
その姿を見た明美が、
「アイツ、背中で泣いているわ。カゲちゃんに会えないのが辛いのよ」
と、涙した。
短気な性格がすっかり消えた弘樹は落ち着いた好青年へと変わり、その変貌ぶりは教師や空手仲間が驚くほどだった。
様々な会議で皆の意見のとりまとめ役を買って出たり、後輩への指導の熱心さと信頼の厚さが評価され、ついには次期部長に任命された。
翔太と明美はいつのまにか正式に交際を始めていた。
そのイチャつきぶりに、周りの生徒達からは『既に夫婦』と呼ばれており、どういう訳か、片思いに悩む者が彼らの側へ行くと、かなりの確率で恋が実ると噂された。
明美は白ギャルファッションから足を洗い、黒髪ベーリーショートの似合う格好かわいい女子高生になった。長髪やネイルは料理の邪魔とのことでバッサリ切ったのだ。
学校祭で燕尾服コスプレをしたのがきっかけで、後輩女子達から絶大な人気を集め「あけみ姉様」と呼ばれるようになり、ファンクラブまでできた。
学園祭が終わると明美は生徒会長から引退し、翔太がその後継者となった。
科学工作部を閉めたあと校内選挙へ立候補し、次期生徒会長として当選したのだ。
そして、時はあっという間に過ぎ、秋から冬、そして春を迎えた。
入学式。
大学生になった明美は来賓として式典に招かれ、翔太は生徒会長、弘樹は空手部部長の席に座った。
軽やかな音楽が体育館に流れ、新入生の入場が始まる。
多くの入学生の中に、一人だけ驚くような美少女がいた。
ファションモデルのようなスレンダーなスタイルと、肩胛骨まで伸ばした蒼く長い髪。そして白い肌と大きな瞳。在校生達の席からはざわめきが起こった。
彼女は会場へ入るやいなや、辺りをキョロキョロと見回し、3人の姿を見つけると列から離れて側まで駆けていった。
それは、女子制服を着たユウマだった。
少し照れくさそうな顔を見せながらスカートの裾を軽く持ち上げ、はにかむように言う。
「似合うかな?」
3人は何も答えられぬまま、笑顔で何度も頷いた。
弘樹の目から涙が流れる。
それを見たユウマも次第に泣き顔となり、大きな瞳から大粒の涙が溢れた。
「ただいま」
呟くように言ったユウマの細い身体を、弘樹は強く抱きしめた。
「好きだ!」
会場に響き渡る大声で告白した弘樹に、周囲の生徒達が赤面と共に注目する。
抱擁の安らぎの中、ユウマは彼の耳元でそっと囁いた。
「わたしも好き。大好き」
そして、思い出していた。
未来の弘樹とユウマの薬指に、同じ形のリングが光っていた事を。
完




