第113話 修行の終わり
約束の30日が過ぎた。
中庭のトーラス岩の前で、ミキと富一そしてマリとロボが、4人の修行者と対面するように並んだ。
「あなた達のお陰で、我々の計画は飛躍的に進み、同時に長年の懸案だった大門の事も一気に解決したわ。ありがとう」
ミキが深く礼をする。
富一が翔太の肩をポンと叩いた。
「お前が無事に修行を終えたので、推薦者として肩の荷が下りたぜ。というわけで俺の役目は終わった。だからここで姫ちゃんと新婚生活をすることにした」
「本当に?!」
皆が目を見開く。
「ああ。随分と待たせちまったからな。すまねぇな姫ちゃん」
「良いのです。今まで成し得なかった分、存分に甘えさせていただきます」
「どうしても、じいちゃんと孫の図にしか見えない……良いのだろうか」
翔太が苦笑いする。
「あなた達からは恋と愛、そこから性欲に繋がっていく貴重なデータが採取できた。やはり、若い男女を連れてきて正解だったわ。我らの悲願である赤ちゃんの誕生が、手の届く範囲にまで近づいてきた」
微笑むミキの言葉に、4人は顔を赤らめてソワソワと挙動不審になった。
一歩前に出た富一が、先ほどとは打って変わって厳しい視線を向けて言った。
「さて、学園理事長として私から話がある」
皆がハッと姿勢を正し、富一を見る。
「まずは翔太。お前からだ」
瞼を細めて静かに見つめる富一の眼光に、翔太は首をすくめた。
「謎を解き明かそうと努力する姿勢には感心だが、セキュリティシステムへの不正な侵入や、メールサーバーへのハッキングはやり過ぎだ。本来なら停学処分が妥当なところだが、捕獲作戦にサインした俺の責任もある。なので、今回はこれで勘弁してやろう」
富一は作務衣の合わせ部分から書類を取り出すと、翔太の前で広げた。
そこには「三ヶ月の活動停止処分」と記されていた。
翔太は空気の抜けるような溜め息と共にガクリとうなだれた。
「何か言いたいことはあるか?」
「いえ……スイマセンでした」
「別にお前の興味や将来を奪おうなんて、これっぽっちも思っちゃいねえ。ただ俺としては、これを機にそろそろ別の事に関心を向けて欲しいと考えている」
翔太がガバリと顔を上げた。
「別なこと?」
「ああ。その事は明美と話し合って、よく考えてくれ」
含みを持たせたその言葉の意味を探りながら、翔太は隣りに佇む明美を見つめた。




