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第112話 kiss

 その頃、別室ではベッドで寝る弘樹の側でユウマが心配そうにその顔を見つめ、時折り額の汗をタオルで拭っていた。

「うーん。暑いな」

 弘樹が目を擦りながら開け、ユウマの姿を見つけた。

「俺、寝ていたのか?」

「うん。半日くらい」

 上半身を起こした弘樹が「イテテッ!」と、手で押さえる。大門に刺された脇腹にはグルグルと包帯が巻かれていた。

「気を付けて。傷口が開いちゃう」

「お前、ずっと着いていてくれたのか?あの後ゲートをくぐってからどうなったんだ?大門とは決着付いたのか?」

「うん。ミキが手伝ってくれて、全部終わったよ」

「そうか。良かった」

「……う……ん」

 ユウマの瞳から涙が零れ落ちる。

「泣き虫だな」

 弘樹がクスリと笑った。

「ゴメン。オレのせいで、こんな傷を……」

「大したことないさ。かすり傷だ」

「格好つけないでよ。長老達が過去のデータを大急ぎで検索して手術したって言っていたよ。熱だって凄かったんだから」

「そんなに?つーか、俺は寝ていただけだからよく分からんなあ。ハハハ。あ、イテテ……」

 弘樹が笑いながら腹を押さえた。

「お前が無事で良かったよ。大門を追ってゲートに飛び込んだ勇気は真似できねえ。スゴイやつだ」

「そう……かな?」

 ユウマは袖でゴシゴシと涙を拭き、弘樹の手を握った。

「弘樹だってオレを助けに来てくれたスゴイやつだよ。あの時、必死に呼びかけてくれたから、冷静な自分を取り戻せたんだ。ありがとう。嬉しかったよ」


 その笑顔に弘樹はドキリとした。今まで以上に可愛く見えるし、愛おしい気持ちが心の中で溢れる。

 不意に、ミキの言葉が思い出された。

『相手が何者であろうと、好きという気持ちに嘘をついてはいけない』

 そう。俺はこいつのことが……。

 弘樹はユウマの頬に手を当て、顔を近づけた。

 突然の事にハッと息をのんで硬直するユウマ。心臓は早鐘のように打ち、顔が上気するのを感じる。

 弘樹が優しく真剣な眼差しで自分を見つめている。

 覚悟を決めたユウマは、そっと瞳を閉じた。

 2人の唇が、徐々に接近していく。


 その時、誰かの気配を感じて、2人はハッと振り向いた。マリと明美がドアの隙間から覗いていたのだ。

「やばい。バレちゃった」

「ウフフ。お2人とも、お気になさらずに続きをどうぞ」

 弘樹とユウマは磁石が反発するように離れた。

「ちょっ……お前ら、覗き見なんてするんじゃねえ!」

「傷の具合はどうかな、と、思って来たんです」

「超抜群のシーンに出くわして、思わずピーピングしちゃったわ」

 目元でピースサインをしながら「テヘッ」と舌を出すマリと明美。

「先にご説明した通り、われわれ人造人間の目下の目標は赤ちゃんを作る事。しかし、愛という感情から性行為に至るまでの精神的・生理的なプロセスを知りません。今、お2人の視床下部からオキシトシンがドバドバ放出されている事を光虫がしっかりモニターしていますよ。というわけで、続きを、さあ早く」

 顔を真っ赤にしたまま俯くユウマ。

 弘樹は力なく「うるせえ」と呟いた。


「あなた達、さっきから何を騒いでいるの?」

 ミキと富一、そして翔太とロボも部屋へ入ってきた。

「姫様、聞いて下さいよ。さっきユウマさんと弘樹さんが……」

「そうそう。この子ったら、かなり積極的なのよ」

「わーっ」

 と、明美とマリの口を塞ぐユウマ。

 ミキは弘樹の額へ手を置き、軽く瞑想をするとニッコリと微笑んだ。

「傷の具合は大丈夫そうね。まだ、少し熱はあるけど、あなたの体力とオド量ならば、食って寝れば軽く治るわ」

 開け放たれた窓からは夜の涼しい風が入ってきた。

 眼下に見えるアーケード街では人々のざわめきと、誰かが奏でる弦楽器の音が微かに聞こえてきた。夜空には3つの月がレイヤー状に重なって、優しく町を照らしている。

「いい月だわ……ねえ。夜の町でも散策しに行かない?」

 明美が翔太に寄り添って腕に絡みついた。

「うん、良いね。僕はカフェテラスでクレープが食べたいな」

「ぷっ。小学生みたい。だいたいこの星にそんなものあるの?」

「そう言う明美は?」

「私はね。イチゴパフェ」

 仲良く話しながら部屋から出て行く。


「俺も行きてぇ。熱のせいか、身体が暑くて少し夜風に当たりたい。手術をしてくれた長老会の爺さん達にも礼を言わないと」

 弘樹が傷口を庇いながらベッドから起き上がった。

「大丈夫?オレも一緒に行くよ」

 ユウマが弘樹を支えるように側へ付き、2人で静かに部屋を出て行った。


 カップル達を横目で見たミキは、マリとロボに命じた。

「あの子達を追いなさい」

「承知しました。ユウマさんと弘樹さんですね」

「明美と翔太よ。特に明美の光虫からは、ドーパミンの大量放出を確認したと報告があったわ」

「なるほど。先ほどユウマさんと弘樹さんのイチャイチャぶりを見て、触発されたのかもしれませんね。きっと対抗意識もあるでしょうし……」

「あなた達は、先回りして町の者達へ良い雰囲気作りを行うよう指示してちょうだい。それから今夜、2人の寝室を……分かっているわね?」

「サーイエッサー!」

 敬礼するマリとロボ。

「と、いうことで、私とトミー殿も出掛けるわ。あとをよろしくね」

 そう言い残して、二人はべたべたに寄り添って屋敷を後にした。

 最後に取り残されたマリは、遠ざかっていく主人達の背中と、傍らに立つロボを交互に見つめながら、その場で地団駄を踏んだ。

「もうっ!みんな惚気やがって~」

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