第111話 富一の勘違い
脇腹を刺された弘樹は屋敷へ運ばれ、長老達の手術を受けた。
オドを鍛錬していた事もあり、驚異的なスピードで傷口は塞がりつつあるのだが、血を流しすぎた為か、昏々と眠り続けていた。
タイムトラベルから帰ってきたユウマは弘樹へ付きっきりで看病し、ミキは相変わらず「怖かった」と言いつつもニヤニヤしながら富一にしがみついて離れなかった。
その日の夜。リビングではソファへ座った富一とミキが、翔太と明美を前にして今までの経緯を語っていた。
「あの時の俺は12歳。雑木林で昆虫採集に夢中になっていたんだ。林の中に廃神社があって、御神体のトーラス岩の前で姫ちゃんと出会い、この星へ導かれたと言うわけさ」
翔太が首をかしげた。
「伯父さんを隠し童へ推薦した人は誰?」
「隣町に住んでいる神主さんが俺の名を上げたんだ。覚えちゃいねぇんだが、俺はガキの頃、その人が道端に倒れているところを介抱したそうなんだ」
「ねえ、ミキは叔父様と初めて出会った時からラブラブだったの?」
明美が目をキラキラさせながら質問する。
「とんでもない。見すぼらしい格好の変な小僧を連れて来ちゃった、と後悔したの」
その言葉に、皆が笑った。
「でもトミー殿はとても優秀だったわ。オドの扱いがたいそう上手で、僅か一週間ほどで私の用意した修行メニューを終わらせてしまった」
2人が手を握り見つめ合う。
「大門とお雪さんの件もあったので、人造人間と地球人との恋愛の行く末を危惧する者達も多かったけど、時間をかけて一緒に乗り越えたわ」
「でも、叔父さんは修行を終えた後、地球へ帰ってきた……と、いうことは遠距離恋愛だった訳だよね」
翔太の言葉に富一がドヤ顔で胸を叩いた。
「姫ちゃんに会いに行きたいがために、全財産を投入してキューブを発掘したのさ」
「愛の力ね!」
明美が顔を紅潮させる。
「そう。今回のテーマはその愛ってやつだ。姫ちゃんは凄く張り切っているし、推薦者である俺が出しゃばるのも良くない。だから傍観に徹することにして、顔を見せないように努めたのさ」
富一は苦笑しながら明美と翔太を指さした。
「明美から科学工作部主導で捕獲作戦をしたい、と提案された時にゃ『ラッキー』と思ったんだ。2人が一緒に行動する機会が増えると、同時に星へ連れて来る事が容易になる。だが、途中でユウマが登場するし、大門や遠藤といった連中も湧いてヒヤヒヤしていたんだぜ」
富一がフウと溜め息を吐く。
「俺の大きな勘違いから始まった事だが、恋や愛という状態をこれだけ詳細に観測できた事は今までにないと長老達が喜んでいたぜ。まあ、結果オーライだ」
「おじさんの勘違い?」
翔太が首をかしげた。
「俺はてっきり、翔太と明美が付き合っていると思い込んでいたのさ。だから推薦したんだよ」
「そうそう。誤情報を流したのはトミーなのよ『あいつら絶対に付き合っている。少なくともチューくらいはしている』って」
富一とミキは笑った。
翔太と明美は暫く見つめ合っていたが、やがて嬉し恥ずかしそうに顔を背けた。




