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第110話 未来

 辿り着いたのはそこから更に30数年後。ユウマ達が20代半ばになろうとしている頃だ。

 今度は昼間だった。学園神社の佇まいは現代と殆ど変わっていない。

 2人は林を歩いて英国風の校庭まで辿り着いた。

「ちょっと待ってユウマ。誰に会おうとしているの?当てはあるの?」

「あるよ。けど、どこにいるか分からないから、これから探すんだ」

「なんなのよそれ!?もう嫌だわ……トミーに会いたい。帰りたいわ」

 半ベソのミキが弱々しく呟く。だが、その瞳がユウマの肩越しに何かを見つけて凝視した。つられてユウマも振り返る。

 4人の大人が校庭の東屋に座り、こちらへ向かって手を振っていた。

 その中の1人、ジーンズとカーディガン姿、ショートカットの女性が駆け寄ってユウマとミキを同時に抱きしめた。

「懐っつい!メッチャ懐っついんだけど!どうしよう」

 女性は泣き笑いしながら、2人の頬に自分の顔を擦り寄せた。

「もしかして……明美?」

 ユウマが問うと、涙と鼻水だらけの顔を上げて頷いた。

「あの時のままのアンタ達に会えるなんて!」

「やあ、待っていたよ」

 スーツ姿のイケメンが優しく微笑む。その腕には幼い女の子が抱かれていた。

「翔太?」

「そうだよ。この子は僕らの子供さ」

「子供……結婚したの?」

「まあ、ね」

 微笑んだ翔太は、明美の方をチラリと見た。


 東屋の屋根の下にもう一組のカップルがいる。

 スーツ姿の赤い短髪の大きな男。そして、椅子に座っている髪の長い女性。

「よ、よう」

 男は緊張した様子でユウマとミキに向かって片手を上げた。彼の姿を見て、ユウマはすぐに分かった。

「弘樹……弘樹だよね?」

 彼は照れくさそうに鼻の頭を掻きながら頷いた。

 綺麗に整った顎髭。きっちりと着こなしたスーツ。顔は相変わらずゴリラのままだが、優しく丸い雰囲気が感じられ、何だか格好良くなったと思った。

「2人とも、げ、元気だったか?久しぶりだな」

 固く直立したまま言う弘樹。その隣で、大きな麦わら帽子と白いワンピースの女性がクスクスと笑った。

「イヤね。何を言っているのかしら。この人ったら緊張しているのよ」

 彼女はゆっくりと立ち上がってこちらを見つめた。

 大きな瞳。三つ編みに結った蒼く長い髪。

 綺麗な人だけど誰だろう、と考えたユウマだったが、ふと気がついた。

「もしかして……オレ?」

 女性は微笑みながら頷いた。


 ユウマは4人へ向かって尋ねた。

「どうしてここにいるの?まるで申し合わせたみたいだ」

 すると、皆がどっと笑い出した。

「どうしてって、あなたが言ったからに決まっているじゃない」

 大人のユウマが涙を流しながら笑う。

 あ、そうか。ここは未来。元の時代に戻ったオレが、試験管に入った魂の顛末を話したんだ。

「可愛いなあ。久々に君の天然ボケを聞いたよ」

「アンタ達がここへ来るのを、首を長くして待っていたんだからね」

 翔太と明美がユウマの頭をクシャクシャと撫で回す。

「あなたは大門とお雪さんの魂を未来の自分へ託したかった。だから、こうやって準備して待っていたのよ」

 大人のユウマが優しく語った。

 準備?そういえば、お腹が少しだけ大きい。

「妊娠……しているの?」

 大人のユウマは、肩に掛かった長い三つ編みを片手でサラリと流すと、恥ずかしそうに頷いた。

「オレが赤ちゃんを?!だ、誰の子?!」

 その言葉を聞いた皆が、手を叩いて爆笑する。

「ウフフ。さあ、誰の赤ちゃんでしょう?」

 大人のユウマは、イタズラっぽく笑った。


 彼女はユウマから試験管を受け取ると、目をつぶって深呼吸を何度か繰り返した。そして封を開けて、スウッと吸い込んだ。

 その行動に迷いはなかった。

 彼女はニッコリ微笑むと、ふいに立ち上がり「うーん!」と言いながら両手を大きく上へ伸ばした。

「これで『10年前の願い』が成就したわ!あとは元気な赤ちゃんを産むだけよ」

 そして、呆然と立ち尽くしているユウマとミキを力強く抱きしめた。

「2人とも可愛い!私って、こんなに小さかったかしら?」

 ガタガタ震えているミキは、弘樹の元へ駆け寄って両手を伸ばした。

「私を抱っこしなさい。早く」

 その姿を見た弘樹が笑い出した。

「ガッハッハ!懐かしいなあ」

 言いながらヒョイと抱き上げる。

 初夏の光が降り注ぐ中、4人と2人は過去と未来の同窓会を楽しんでいた。

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