表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/116

第108話 大門の最後

 ユウマとミキが駆けつけたとき、少年の大門は地面へ仰向けに倒れたまま荒い息を繰り返していた。

 白い顔はあちこちが割れており、口の端からは血が流れていた。

 ミキは彼の胸の上で手をかざしたり、九字を切るような仕草をしたが、やがて諦めるように大きく息を吐き、ユウマに向かって静かに首を振った。


 2人が大門を上から覗き込むと、彼は充血した真っ赤な目を細めた。

「眩しいな。これが浄化の光ってやつか。堕霊が剥がれていくのを感じるよ」

 そう言って自分の左手を見つめる。紫色のオドが灰のように中空へ霧散していた。

「マスターのオドを使って堕霊の力を究極に高めようとしたが、それでもお雪を助けられなかった……希望は消えた。どうせ、この傷も治せない。機能が止まる前に私を始末してくれ」

 そう言って、激しく咳き込む。

 ユウマは大門の泥だらけの手を握りながら言った。

「例え悪いことだと分かっていても、泥棒した時にアンタから褒められると嬉しかった。お金を貰えるより、嬉しかった」

「君もつくづく幸薄いな。そんなことで喜ぶなんて」

「そうだね。でも本当だよ。嬉しかった」

  微笑むユウマを黙って見ていた大門が、顔を背けた。


「……あの時、戸惑わずにお雪を連れて星へ逃げれば良かった。そうすれば、ずっと彼女の側にいられた。私はそんな血が滲むような後悔をずっと続けていた」

 再び咳き込む。身体のあちこちから赤い体液がどくどくと流れ、地面を染めていた。

「お雪と共に生き、死んでいく……そんな夢を何百何千回も見た。彼女を救う為なら堕霊に蝕まれてどんどん醜く恐ろしい姿に変貌していくのも、甘んじて受け入れられた」

 そして、ユウマの手を握り返した。

「君はオドを使って女性になろうとしているんだろう?願いを叶えろ。他人が何と言おうとも、なりたい自分になれ。そして……愛した者の手を離すな。私のようになるな」

 彼は虚ろな目で空を仰いだ。

「君の手は暖かいな」

 荒い呼吸に混じって微かなモーター音が聞こえる。もう、息をするので精一杯だった。

 ユウマは傍らのミキへ言った。

「あの技を、お願い」

 頷いた彼女は瞑想を始めた。

 しばらくすると、彼の心臓の上にビー玉のような白い玉がポカリと浮き上がり、ユラユラと浮遊し始めた。

 大門は吐息のような長い呼吸を吐き出すと動かなくなった。


「こっちも、できる?」

 ユウマは地面の下を指さした。

「お雪の魂を?地中に埋まった人間から取り出すなんて、初めてだわ」

 ミキは戸惑いながらも瞑想し、両手を地面へ向かって伸ばした。

 暫くすると、タンポポの綿毛のような魂が浮き上がってきた。袂からガラス瓶を取り出したミキは、それをそっと中へ入れて封印した。

 2つの魂は瓶の中で回ったり弾けたりしながら動いている。

 それはやがてくっついて溶け合い、1つになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ