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第107話 お雪の元へ

 気がつくと、いつの間にか林の中に立っていた。

 風に揺れた木々がザワザワと音を立て、鳥の鳴き声が響いている。昼間だが、森林に覆われているせいか、周囲は夕方のように薄暗かった。

 背後には朽ちかけた廃神社とトーラス岩が佇んでいた。

 ミキが周囲を見渡しながら言った。

「私の年代座標によると、江戸時代の終わり頃。場所はちょうど学園神社の前よ」

「つまり、オレ達はタイムスリップに成功したの?」

「そのようね。過去の日本へ来たのよ」

 ハッとユウマは周囲を見渡した。

「大門は、どこ!?」

 彼の流した赤い体液の痕が、点々と草の上に落ちていた。


 そのころ、少年の大門は山を駆け上っていた。

 右腕を切り落とされ体中がボロボロだったが、持っているオドをフルに使って傷を庇い、鬱蒼と茂った草木を掻き分けながら、ある場所へ向かっていた。

 それは山の中ほどにある、お雪が埋められている人柱の儀式場だった。

「まだ間に合う。まだ間に合う」

 その言葉を呪文のように呟きながら進む。

 赤い体液が草木へ飛び散り、腕の切断面からは様々な太さのチューブや銀色の骨が覗いている。気を失いそうになりながらも、必死で駆け上っていた。

 やがて、その場へ辿り着いた。

 四方をしめ縄と紙垂で囲まれた地面が見える。

「ここだ」

 地面から突き出た竹竿は、地中深くに埋められた樽に空気を取り込むためのものだ。

 それに向かって叫んだ。

「お雪!お雪!」

 耳を澄ますと、地の奥から彼女が鳴らす鈴の音が聞こえる。まだ生きている。大門は呼びかけた。

「お雪!」

 暫くすると、竹竿から呟くような声が聞こえた。

「……あなたなの?」

「そう。私だ。迎えに来たよ」

「幻かしら。最後に声が聞けたなんて」

「夢でも幻でもない。私はここにいる。何年間も君を放っておいてすまなかった」

「ああ。会いに来てくれたのね……でも、私、埋められたの。ああ、息が苦しい……もう、ダメだわ」

「問題ない。今すぐ、助け出してやる」

 大門は片手で地面を掘り始めた。

 だが、お雪はそれを止めた。

「駄目よ」

「な、なぜだ?助かりたくないのか?」

「……」

「こんなことで死ぬなんて馬鹿げている。ここから出て私の星へ逃げよう!」

「それは出来ないわ」

「なぜだ!?」

「私一人の犠牲で、皆が助かるの」

「人身御供なんて迷信だ!良く聞いてくれ。あの占い師は自分の利益のために君を騙したんだ。こんなことで気候が変わるわけ……」

「知っているわ。でも、皆が私に希望を託している。雲の間からお天道様が出なくても、ほんの少し雨が止むだけでご利益があったと喜ぶわ」

「騙されたと知りながら自ら生け贄になったというのか?!お前を助け出し、村の者達を皆殺しにしてやる。そうすれば悪く思う奴も、馬鹿にする奴もいなくなる」

「私ね、2人の子供がいるの。あなたと会えなくなった後、生まれたのよ」

 地面を掘り続けていた大門の手が止まった。

「私が生け贄になれば、夫と2人の子供の身は保証されるの。私が逃げたなんて知られたら、子供が犠牲になってしまう」

 鈴の音が途切れてきた。

「……ああ。苦しい……息が……」

「お雪!お雪!」

 竹竿の先から聞こえてくる声は、徐々に細く小さくなってきた。

「愛……してるわ。生まれ変わったら、一緒になりましょ……」

「私もだ。お雪……私も、愛してる」

 大門は竹竿を抱きしめた。

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