第106話 パワーゲートの中へ
「カゲちゃん!助けに来たわよッ!」
叫びながら明美がやって来た。そのすぐ後からミキと翔太そしてロボも駆け込んで来た。
ボンヤリと座り込んでいるユウマに、ミキが勢いよく抱きついた。
「いいこと?暴走は危険なの。ゆっくりと息を吸って……」
言いかけて気がついた。嵐のようなオドの暴走は嘘のように収まっている。
そして愕然とした。
乳白色の巨大なオドが、まるで守護神のようにユウマを取り巻いているからだ。自分が覚えている限り、こんな超強力なオドを持った者は、未だかつて見た事がない。
「……な、何なの、これ?」
状況が掴めず、ユウマの顔や体をぺたぺたと触る。
「ごめん。大事なオド結晶は大門に盗られちゃった。でも箱舟からオドを分けてもらったお陰で、体調が良くなったんだ。まるで体の中から力が湧き出るみたい」
照れ臭そうに鼻をかくユウマを、ポカンと見つめるミキ。
「箱舟からオドをもらう?……ああ。何だか、もうよくわからないわ……こんな状況でオドが暴れ出したら……」
「大丈夫。このお嬢さんは、自分でちゃんとコントロールできているぜ」
皆がその声に振り向いた。4人がそこで見たものは、床に倒れて大人しくなった大門と、それを片手で抑え込んでいる老人だった。
「あれ。おじさん?なぜここに!?」
「おじ様!?」
翔太と明美が意外な人物の姿に目を見開いた。
「よう。久しぶりだな」
富一が笑顔を見せる。
その途端、ミキがユウマから素早く離れて富一へ抱きついた。
「トミー殿。来てくれたのですね」
「もちろんさ。姫ちゃんからヘルプの連絡を受けたから急いで来たんだぜ」
「怖かった……怖かったですわ。本当は側にいて欲しかったの」
「俺だって同じ気持ちだぜ。片時も姫ちゃんの事を忘れていなかったさ」
熱い抱擁を交わす二人の姿を見て、その場の全員が顎が落ちんばかりに口をポカリと開けた。
「まさか、ミキの恋人って叔父さんだったの!?」
翔太が震える手で二人を指さした。
「ええ。私の素敵なダーリンよ」
驚愕の眼差しで見つめる皆の前で、尚も抱き合う2人。
「端から見ていると、ジイちゃんに甘える孫の図だわ……」
つい本音を言ってしまった明美に向かって、ミキは唇を尖らせて抗議した。
「あら失礼ね。私たちは正真正銘の恋人よ。愛には年齢など関係ないの」
「ちくしょう!ちくしょう!」
強引に富一を押しのけた大門が勢いよく立ち上がった。
堕霊のオドが爆発したように四散し、周囲の四角柱が吹き飛ばされ、皆が思わずしゃがみ込む。翔太と明美を守ったロボのボディに、その破片が当たって幾つもの窪みができた。
「私は諦めない……諦めないぞ!」
大門がパワーゲートへ向かって走り出した。その姿を見たミキが叫ぶ。
「待って!それは起動しただけで、まだ行き先の座標を決定していないのよ」
ユウマも走り、富一の傍らに立つミキの手を掴んだ。
「一緒に来て!」
「え?……ええ!?」
困惑したままのミキを抱きかかえて大門の後を追い、パワーゲートへ飛び込んだ。
3人は大きなトンネルの中を飛ぶように進んでいた。壁面にはテレビの砂嵐のような模様が蠢いている。
ユウマにしがみついているミキが叫んだ。
「パワーゲートの使用権はあなたにあるの!早く行き先を決定して。さもないと、とんでもない所に辿り着いてしまうわ!」
「大門は、お雪さんに会いたいんでしょ?その時代に行こう」
「ダメよ!殺戮が始まってしまうわ」
「あの傷じゃ無理だよ。それにオレ達がいれば、浄化の作用で堕霊は使えなくなるでしょ?」
「それもそうだけど……」
「で、いつ頃ごろに行けば良いの?」
「江戸時代の終わり頃だから、えーと、えーと……詳しい事は光虫に聞いてちょうだい!」
「光虫に?」
「早くしてぇ!」




