第103話 大門との対決2
瞬間移動してきた弘樹が、大門の前に立った。
ハァハァと息を切らしながら、汗だくの額を袖で拭う。そして、ユウマを見た。肩を押さえて跪き、殴られた頬は赤く腫れ上がっている。
怒りに震えた弘樹が叫んだ。
「テメエは許さん!」
「ふん。ナイトの登場か?洒落臭い!」
弘樹の赤毛が逆立ち、腕の筋肉が張り裂けんばかりに盛り上がる。
その姿がフッと消えた次の瞬間、少年の小さな身体が前のめりに折れた。弘樹の膝蹴りがボディへ深く入っていたのだ。
「ぐはっ……!」
苦しそうに腹を押さえる。すると、今度は顔を殴られて横へ飛んだ。
容赦なく攻撃する弘樹の姿がフラッシュの様に一瞬だけ見える。その度に大門の体はサンドバッグのように左右へ弾かれていた。
ついに大門は床へ倒れた。
弘樹がスッと姿を見せ、仁王立ちでその姿を見下ろした。
ぼろ切れのようになった大門が、口から赤い液体を垂らしながらヨロヨロと起き上がった。
「助けて……助けて」
祈るようなポーズで弘樹の足元にすがる。
「痛いよう。もう僕を殴らないで」
「な、なんだ。今さら命乞いか?」
とどめの拳を振り上げた弘樹だったが、泣きじゃくる少年の姿に躊躇した。
その一瞬の隙に、大門の鉤爪が弘樹の右脇腹へめり込んだ。
何が起こったのかすぐに理解できなかった弘樹。だが、視界の端に赤いものが見え、脇腹から血が噴き出している事に気付いた。
鋭い激痛が襲って下半身から力が抜け、グラリと倒れた。
「はっはっは!生意気な高校生め。私に敵うわけがなかろう!」
少年の勝ち誇った笑いが響く。
ユウマが悲鳴をあげて弘樹の体へ覆いかぶさった。
「弘樹!弘樹!」
「クソッ!俺の事はいいから、逃げろっ」
「そんな無理だよ!だって、こんなに血が……!」
「早く行け……ううっ」
気を失いかけている。血がにじみ出て止まらない。ユウマは泣きそうになりながら、傷口を必死に押さえた。
大門が爪を振りかぶって襲いかかってきた。
瞬間、ユウマは念動力で周囲に球状のバリアを張り巡らせた。鉤爪がぶつかる度に、バチバチと稲妻が走った。
「パワーゲートの使用権を私に戻せ!」
「嫌だ!過去の地球へ行って皆を抹殺する気だろう?」
「そうさ。お雪を救った後、他の者達を全員殺す!その空手男やお前も殺す。みんな血祭りにしてやる!」
めちゃくちゃに殴る大門。
ゆらりと立ち上がったユウマの蒼髪が逆立ち、全身から乳白色のオドが噴出される。渦を巻いた空気から小さな稲妻が放たれた。
「そんなことはさせない。絶対にさせない!これ以上、皆を傷つけるなら、アンタを殺す!」
ユウマのオドを吸収した箱舟は、全てのシステムを復活させエンジンを始動した。
湖底から舟が離れ、浮上を始める。
夕暮れの町。
街灯の下で、人造人間達はいつものように静かな宵の時間を過ごしていた。
テラスでディナーを味わう者、路上でギターを演奏する者、ボードゲームに興じる老人達。それはまるでゴッホの描いた「夜のカフェテラス」によく似た光景だった。
その上空では、飛行するロボに抱かれたミキと翔太が現場へ急行していた。
灯台のすぐ側まで来たとき、翔太が眼下を指さした。
「あれは、明美じゃないか?!」
ロボは急降下し、湖畔へ降り立った。
明美は涙と鼻水でグシャグシャになった顔で翔太に抱きつき、子供のように大声で泣く。
「良かった!無事だったんだね」
翔太がブルブルと震える彼女の身体を強く抱きしめる。
「カゲちゃんが……カゲちゃんが……!」
しゃくりあげながら訴える明美。
そのとき、突然の雷鳴が起こり3人が首をすくめた。
雲が猛烈な勢いで逆三角形の積乱雲へと成長する様子が見え、やがて人の爪ほどの大きさの雹がバラバラと降ってきた。
湖面に乳白色のオドが渦巻き、稲妻を放っている様子が見えた。
「これはユウマのオド……まさか、暴走?!」
女性化がほぼ完了しつつあるとは言え、ユウマの心はまだ不安定。恐れていた事が、ついに起こった。
ロボが皆を抱え、急上昇した。
巨大な四角い塊が湖底から浮き上がってくる様子が見える。
「あれは、箱舟……!?」
ミキの全身に鳥肌が立ち、額から冷や汗が流れた。




