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第100話 箱舟

ユウマは焦っていた。

 町には夕刻が近づき、ガス灯に火が入り始めている。家路に就こうとする人々の往来が激しくなってきた。

 灯台は湖畔へ行けばすぐ分かる場所に建っているが、そこへ辿り着くまでの道は複雑に入り組んでおり、思っていた以上にユウマを迷わせた。

 身体中が汗だくで、サンダル履きの足は泥だらけだった。

 明美を助けたい一心で屋敷を飛び出してきたが無謀だったのかもしれない。うっすら後悔をし始めたその時、大門からのメッセージが聞こえた。

「だいぶ近くまで来たね。その道を真っ直ぐだよ」

 指示された道をしばらく進むと町外れに辿り着き、目の前に海のように広がる大きな湖と、砂浜からニョキリと伸びている白い灯台が見えた。

 高さは10メートルほどで、周囲の大きさは家1軒分くらいだろうか。ぐるりと一周すると、鉄製のドアがあった。ノブに手をかけて引くと、金属がこすれる渋い音を立てながら、重たい扉がゆっくりと開いた。


 夕刻の薄明かりが辛うじて内部を照らす。

 そこに見えたのは地下へ通じていく長い螺旋階段だった。

 用心深く降りていき、底へ辿り着くと潜水艦のようなハッチがあり、開けると白く細長い廊下が見えた。

 さらに先へ進む。

 数メートルおきにランプが付いており、ボンヤリと足元と周囲を照らしている。以前見たVR映像では、方舟と呼ばれる巨大宇宙船がここに沈んでおり、その通気孔と灯台が繋がっているらしい。

 どこまで続くのだろう、と不安に思い始めたころ、磨りガラスの壁に辿り着いた。

 顔を近づけて向こう側を覗き込んだが、よく見えない。

「隙間も亀裂もない……どうやってこの先に進むんだろう」

 独り言ちながらガラスをペタペタ触っていると、まるで溶けるように壁が消えた。


 そこには半円球状の巨大な室内があった。

 殺風景な白い天井と壁。そして床から幾つもの四角柱が伸びている。それは30センチ四方で、人の腰ほどの高さのものだった。

 だだっ広い床の中央は窪んでおり、大きなトーラス岩が鎮座している。

 その岩の前に、狩衣に身を包んだ少年の大門と、彼の足元に座り込んだ明美の姿があった。

「やあ、本当に1人で来たんだね。偉い偉い」

 そう言って可愛らしい笑顔を見せる。

「カゲちゃん!」

 明美が四つん這いのままユウマの元へ行こうとした。

「まあ、待てよ」

 大門が彼女の肩へ置いた手に力を込め、引き寄せた。

「ギャル会長君を連れ去ったのは悪かったけど、こうでもしないと君と話ができないと思ってね。私の事はもう知っているだろう?初代の隠し童なんだ」

 大門は「フンッ」と小さく気合いを入れた。すると、急に成長したかのように大人の姿へ変わり、いつものスーツ姿へと変身した。

「見慣れたこの姿の方が、話がしやすいかな?」

 バリトンの声で語り、微笑む。

 彼は右手の中指で眼鏡をクイと上げると、両手を広げて薄暗い部屋を見渡した。

「ここは、かつて箱船と呼ばれた宇宙船の中です。湖底深くに沈んでいますが、船のシステムはまだ生きており、ここに保管されている過去の遺物を静かに守っているのです」

「知っているよ。この中にあるパワーゲートを動かしたいことを。それが本当の目的だったんだろう?」

 室内のトーラス岩を指さしたユウマ。

 大門は目を三日月のように曲げて微笑んだ。

「ええ。その通りです」

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