魔物の写真、動画買い取ります
ある世界のある国では、魔導具で撮った魔物の写真や動画を売り買いすることが、流行の一つとなっていた。
その魔導具を使うと、記録された写真や動画を記憶の中で鮮明に見ることができるのだ。
目が見えない人でももちろん見ることができる。
私は目が見えない孫のために、冒険者や街の住民から色々な写真、動画を買い取っている。たまに売ることもある。
可愛らしい魔物や、幻想的な風景そういうものだと大歓迎だ。孫が喜ぶ。
カランカランと店の扉が開く音。
さて、今日の客はどんな写真、動画をみせてくれるかな。
「あのぅ。この店で魔物の写真とか買い取ってくれるって聞いて来たんですけど」
若い、まだ駆け出しという感じの冒険者だ。
「ああ、買い取っているよ。どんな写真を持ってきたんだい?」
「これなんですけど……」
彼は頭をかきながら、自信なさげに魔導具を取り出した。
「見ていいかな?」
「どうぞ」
私は目を閉じて魔導具を起動させる。
脳裏にある風景が広がった。
森の中、ふわふわの白くて丸い、木の葉くらいに小さな魔物が沢山、思い思いの場所で寛いでいる。
珍しい魔物だ。人の気配を感じるとすぐに逃げてしまうので、見つけるのは困難だが、運良く見ることができるとその日一日幸せな気分になれるという伝説がある。
名前は確か、エウペスフィアだったな。
「エウペスフィアを撮ることができるなんて凄いじゃないか」
「その魔物、そんな名前なんですね」
「滅多に拝めない魔物だ。どうやってこんなに沢山、それも寛いでいる場面を撮ったんだい?」
彼は話してくれた。この写真が撮れた経緯を。
その日は一日、踏んだり蹴ったりな日だった。
まずは朝、起きたら枕元に置いていたお金が無くなっていた。誰が盗んだんだよ! 部屋には鍵をかけておいたはずなのに!
つぎは昼間、冒険者協会で仲間と待ち合わせをしていたのに、お前はいらないと仲間から追放された。一方的だった。訳が分からない!
最後は森、仕方がないから、薬草を集める依頼を受けて、一人で森に入った。普段は薬草が豊富に生えているのに、その日に限って全て取り尽くされていた。これでは依頼を達成できない!
お金が無いから食事もできず、お腹が空いてとうとう森の中でうずくまってしまった。
しばらくそのままでいたとき、木々がざわめき、どこからともなく見たことの無い魔物が沢山出現した。
その魔物たちはこちらを襲う素振りもみせず、傍で寛ぎはじめた。初めてみた魔物に驚き、空腹も忘れ咄嗟に魔導具を起動させた。
「この写真はそうやって撮れた物です」
「ふぅーん、なるほど……」
普段は人の気配を感じると逃げる魔物が、彼には寄ってきた。
普段との違いはなんだろうな。
「何か特別な物でも持っていたのかい?」
「……特に何も持っていなかったはずです。逆にお金すらなく、不幸な気持ちでいっぱいでした」
ふこう、不幸ね……。ああ、もしかしたら
「エウペスフィアは、不幸を糧にしている魔物なのかもしれないね」
「不幸をですか?」
「そうそう。君の不幸を感じ取り、糧にするために寄ってきた」
「なる……ほど?」
「推測だけどね」
首を傾げる彼に、魔導具の代金を渡す。
「こんなに頂けるんですか?!」
「珍しい写真だったからね」
「ありがとうございます」
お礼を言って出て行こうとする彼に、問いかける。
「エウペスフィアを見たあと、幸せな気分になったかい?」
「うーん、幸せな気分というか、いい事ならありました」
「どんなことか聞いていいかね?」
彼はパッと顔を明るくした。
「幼なじみだった女の子が、冒険者仲間を探していると、僕を仲間に誘ってくれたんです」
幸せそうに笑った彼は、そのまま店を出て行った。
エウペスフィアという魔物は、糧にした不幸の分だけ、幸にして返してくれる魔物なのだろうか。
店の外は薄暗い。
今日はこれで店じまいだ。
エウペスフィアの写真をみたら孫はどんな反応をするのか、たのしみだね。
私はフードで隠れた長く尖った耳に触れた。
耳に着けている魔導具が起動し、店から家の自室へ転移する。
ひと息ついた私は、孫の反応を思い浮かべながら自室からでた。
お読みいただきありがとうございました( ..)"