95 今日はここまで
その後も俺は気になった事をポツポツと尋ねた。
「コパン、さっき言っていた身元って、この世界の人は戸籍みたいなもので管理をしているの?」
「こせき……?」
あ、コパンの目がまたグルグルしてしまった。
「み、身分証明ってどうしたらいいのかなって思って」
慌てて言い直すとコパンは「ああ」と安心したように頷いた。
「大丈夫です。以前に魔法鑑定の事をお話したと思いますが、人間は教会に行って鑑定をした時にその身分も証明されます。こちらが魔法鑑定と一緒に渡されるタグです。アラタ様の場合は転生者なので、女神様から隠ぺいの魔法がかかったタグをいただいています」
そう言ってコパンは収納から銀色の札のようなものを取り出した。
「隠ぺい?」
「ええっと……前は転生者っていうのが分かるようになっていたのですが、今はそれを秘匿して色々な力も分からないようになっているそうです。なのでどこかの街に入る時にはこちらを見せる事になります。女神様が仰るには面倒ごとに巻き込まれないように、だそうです」
そうなんだ。過去に権力に巻き込まれるとかそんな事があったのかな。とりあえず面倒なのはご免なので配慮は感謝して受けよう。
「これはアラタ様にお渡ししておきますね。インベントリに入れておいてください」
「うん。分かった。えっとコパンは?」
「私はアラタ様と契約をしている風の妖精となっています。『お助け妖精』ですと、アラタ様が転生者だと分かってしまいますから。元々妖精や精霊は自由な存在ですし、自然の中から生まれてくるものなので、タグなどで管理は出来ないのです。ポートを使わなくても転移が出来たり、妖精の道を使ったり出来ますからね」
「そうなんだ。じゃあ前に言っていた獣人とかエルフとかドワーフはタグみたいなものがあるのかな」
「そうですね。おそらくそれぞれの種族で登録したり、登録から漏れてしまった者はギルドで冒険者になったり、薬師とか、商人とか、農夫とか、騎士などの職業で登録をしている場合もありますね。結構色々だと思います」
そうなんだ。種族も色々だから身分証明みたいなのも結構幅が広いっていうか、色々あるんだね。
「えっとさ、色々あるのは分かったけど、登録から漏れたって?」
「はい。ええっと例えば人ですと、魔法鑑定を受けられなかった子とか、あとは異種間のハーフでどちらのタグももらえなかったとか、そういう事も時々はあるみたいです。なのでそういう者達の為に職業などで自己登録が出来るようにしているみたいです」
「なるほど。色々考えられているんだね。じゃあ、身分証明がない者はほとんどいないのか」
「う~~~~ん、一部の国では身分を奪われて奴隷になっている者もいるようです。でも詳しくは分かりません」
「奴隷…………」
いるんだ。そうか…………
「主には犯罪者らしいです」
俺が考えているとコパンがすぐに説明を付け加えてくれた。
色々な情報があったな。忘れないようにもう一度自分でも整理をしておこう。
「コパン、今日はここまでにしよう。また今度、そうだな……それぞれの国の特徴みたいなものがあるなら教えてくれるかな?」
「! はい。そうですね。そうしましょう。国の特徴もきちんと整理をしておきます。おまかせあれ~!」
どこかホッとしたようなコパンを見ながら、俺はこの先にどんな道が現れるのかなちょっとだけ考えてから、少し遅くなったお昼をどうしようかなっていう事に気持ちを切り替えた。
◆ ◆ ◆
気づけばお昼の時間を結構過ぎていた。
レシピ登録してあるものでサクッと何か用意しよう。そう考えていたらピロンとスマホが鳴った。
「うん? レベルアップ?」
この世界の事を知ったからレベルが上がったとか?
「アラタ様? どうしたんですか?」
「あ、うん。スマホが鳴ったからレベルアップかなって。でも特に何かしたわけでもないしなって思って……え?」
確認したステータス画面には初めて見るものがあった。
『女神からのお詫びセット』
「女神からの贈り物が増えている」
「! きっとそれが今回のお詫びの品です! 女神様はきちんとお約束を守ってくださったのですね。どんな贈り物なんでしょう」
大きな期待が込められたコパンの顔に笑いを堪えながら、俺はその文字に触れた。するとキラキラとした光が出て俺たちの前にはそれほど大きくない箱が現れた。
「…………なんだろう?」
「開けてみましょう!」
その言葉に反応するように現れた箱が勝手に開いた。
「うん?」
はたして中にあったのは……
「本と……手紙?」
本は多分新しい特殊アイテムになるのだろう。そしてうっすらと虹色に光っているような封筒を俺はそっと開いて中のものを取り出した。
「欲しいと思っている食材が手に入るチケット十枚……? え! 欲しいと思っている食材が手に入る⁉」
虹色の手紙を手にしたまま俺は思わず大声を出していた。




