89 お助け妖精はサイコーに可愛い
詳しく聞いたところ、リヴィエールが昼寝をしていたのは大体人の時間でひと月ほどらしい。
ひと月の昼寝ってどんなだよって思うけど、精霊にとってはほんのちょっとなのだそうだ。その間に勝手にワームが増えて、信じられないくらい大きくなって川の生き物たちを食い尽くすなんてありえないのだそう。
「とにかく、これは異常な事なの。それは間違いないの!」
必死にそういう水精霊に俺とコパンは目を見合わせた。そして。
「それでどうしたいの?」
「え?」
「異常だって君が思っているのは分かったけど、君はどうしたいのかなって」
「…………え……だって、こんなのはありえないんだから。ここは女神様の森なんだから、元に戻らないと駄目でしょう?」
「こういうのは勝手に元に戻るものなの?」
「そんなのあたしに分かるわけないじゃない! だってこんなの初めてなんだから!」
いや俺達だって初めてだよ……こんなミミズ見たくないって。
「コパン、これはどうしたらいいのかな」
「…………ええっと」
コパンの目がグルグルになっていく。うん。お昼寝していたらワームが増えていて、あっという間に大きくなって川を潰したなんて、俺達が考える事ではないと思う。いたらいけないものはいられなくて、ありえないようなものは現れたらいけない場所なら、この状況をどうにかするのは女神だろう。
女神が何もしないなら、それはこの状況がありえない事じゃないって事で、どうにかするのはこの川を守るべきリヴィエール本人なんじゃないの?
「そんな事言わないで! だってあたしじゃどうする事も出来ないもん! あたしは川に現れたものを殺す事は出来ないんだから! 頼んで退治してもらう事は出来ても、自分では守りの場所に現れたものに手をかける事が出来ないのよぉぉぉ! だから土のあの子だって、眷属のネズミに頼んで貴方に助けてもらったんじゃないの! それなのに、どうしてあたしの事は助けてくれないのよぉぉぉぉぉ!」
え…………あれって、そういう事だったの?
っていうか、当たり前みたいに人の頭の中を読まないでほしい。
「すみません、大事な事は聞こえてくるんです……」
「ああ、いや、コパンの事じゃないよ。コパンのそれはちゃんと始めから分かっているから。そうじゃなくて、そうじゃ……はぁぁぁぁぁぁ」
俺は大きな溜息をついた。
「ようするに、その場所を守る精霊はそこに現れてしまったものを殺す事は出来なくて、でもイレギュラーな数に居てもらうのは今まで暮らしてきた他の生き物たちが困るから、なんとかしたくて、助けてくれるものを探していると」
「うん……だいたい、そう」
「それで俺はあの洞窟に住み着いていたリザードマンを倒したから土精霊の祝福とやらをネズミから渡されて、今度はあの巨大ワームを倒したから、ここも何とかしてくれって君からお願いをされていると」
「あってる」
そうかよ。精霊って結構人使いが荒いな。っていうかあのネズミ眷属だったのか。
「あたしの眷属は水がないと生きていかれないから……」
「…………ああ、そうだろうね」
がっくりと疲れたように肩を落とした俺に、コパンが「アラタ様」と話しかけてきた。
「無理にやる事はないです」
「コパン」
「お助け妖精~~~! 余計な事を言わないで!」
リヴィエールがコパンに向かって声をあげて、すぐにしゅんと小さくなった。
「お願いします。助けてください。このままだとこの川は消えてしまいます。少なくなってしまったけれど、ここには私の大事な者達が生きているんです。どうかこのワームを消してください」
リヴィエールはそう言って頭を下げた。
俺は死にそうな気持であちこちに固まっているワームを見る。
「うぇぇぇぇぇぇ、どう見てもでかいミミズだよぉぉぉ」
ミミズは虫だ。そう思うと【鑑定】が俺に余計な情報を教えてきた。
『ワームはミミズ系の魔物です。ミミズは環形生物に分類される生物の一種で、虫の一種として扱われていますが、生物学的には虫ではない生き物です』
「ああ、そうなんだ……」
「ア、アラタ様」
コパンの目が更にグルグルになって、ちょっぴり泣きそうになっている。
「大丈夫ですよ。無理をしないで、嫌だったら嫌って言っていいのです。アラタ様がやらなければいけない事ではないです。精霊の事は本来は精霊自身で解決をしなければならないのです。でも精霊に手を貸すとちょっぴりいい事があるのも確かです。コッコの卵のように何かいい事に繋がっているかもしれません」
俺は思わず笑い出してしまった。
いい事がちゃんと食に繋がっているんだね。うんうん。食べる事は大事だもんね。
本当に俺の『お助け妖精』は可愛くて、食いしん坊で、かっこよくて、ポジティブで、サイコーだ!
「そうだね、コパン。何かいい事があるのかもしれない。虫はごめんだけど、虫じゃないなら仕方がないな。リヴィエール、ワームが巨大化したのは本当に理由が分からないの?」
「分からない。でも、ちょっと変な感じがした事もあった」
「変なって?」
「…………よく分からないけど、なんかちょっとだけずれたって感じた時があったの」
「ずれたって何が?」
「……分からないわよぉぉぉ! でもなんかおかしいなって思ったら増えてきて、どんどん大きくなっちゃったんだもん! いつもはお昼寝していても、川の子たちが食べてくれるんだもん! 餌としてちゃんと回っていたんだもん!」
「…………よく分からないけど、とりあえずワームを食べられる子が減っちゃったならこのワームは消えてもらっちゃうね。またでかくなっても困るから」
俺はそう言ってミミズの塊たちを川の傍に開けた穴の中に入れて、一気に凍り付かせた。そうしてコパンが何も言わずに『ウィンドカッター』を使った。あとはアンデッド化しないようにきちんと浄化をして埋めてしまう。
元々が食物連鎖のサイクルの中にあって、そのサイクルが成り立たなくなっているのであれば、駆除する以外に方法はない。さすがにこれがまたあのサイズに育ったら、森自体が大変な事になってしまうだろう。ミミズは土の中に潜るしね。畑では良い土を作ってくれるらしいけど、あのサイズで地中を穴だらけにして、あの砂を吐き出されたら、あっという間に砂漠だよ。
川を埋め立ててしまいそうな砂はコパンが一度収納をしてから森の中に移した。まぁ少し小山になったけど、川に流れ込まないところだから許してほしい。これがまずいなら後は女神が介入してくれと思う。
「とりあえず飽和状態になっていたワームは駆除したし、水が流れなくなっていた所の砂は無くなったから、あとはこの川の守りであるリヴィエールが、きちんと整えていくしかないよ」
「頑張ります。ありがとう、アラタとお助け妖精」
リヴィエールはお礼だと言って俺に川で採れる真珠をくれた。そして土精霊と同じような宝物箱も渡して来た。中には綺麗な青い石が入っていた。
「水精霊の祝福」
【鑑定】がそう教えてきた。
「水の中でも息が出来るの!」
何も言わないうちに、教えてくるのはリヴィエールらしいなと思った。
こうして俺は珍しい淡水真珠と水精霊の祝福の石を手に入れた。
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