88 女神の森
「え? どういう事? いたらいけないものはいられない筈って」
「そのままの意味よ。だってここは女神様が作って、未だに色々と変化をさせている場所の筈でしょう? でも変化をさせられるのは女神だけの筈なのよ。だからありえないようなものは現れたらいけないの。それはおかしな事なのよ。ちょっとお助け妖精! あんたなんできちんと話をしていないのよ」
「話は少しずつしています。貴女にそれを言われる筋合いはありません!」
あ、コパンが珍しく怒って言い返している。
「だって、これは基本的な事じゃない!」
「森についてはまた改めて話をするつもりなんです! 私だってこの世界は初めてなんですからアラタ様と一緒に知っていく事もあるんです! 余計なお世話なんです!」
コパンとリヴィエールの言い合いが続いている。何がどうおかしいのか、どれが基本情報なのか、俺にはよく分からなかったけれど、『深層の森』と呼ばれている女神の森はその名の通り女神が作った森で、女神が創造をしたもの以外がいたらおかしいのか……?
「で、でもたまにエリアが違うような<はぐれ>がいるよね。ぽつんと単独で出てくるその場所にしては戦闘能力が高い魔物。さっきも言ったけどさ」
口を挟むようにそう言うと、リヴィエールが振り返った。
「ああ、<はぐれ>って一匹だけ場違いで出てきちゃったような奴ね。まぁあれもステップアップのために組まれているものって聞いた事があるわよ」
「……そうなんだ。じゃあ、あのオークも……」
「違います! あれは違います!」
俺が呟いた途端、コパンが声を上げた。リヴィエールがいぶかしげな顔をしてコパンを見ている。
「今回のワームがそれと同じようなものだとしたら、それは女神様にお知らせをしなければなりません。必要があればきっと女神様からも声をかけてこられるでしょう。でもあのオーク達は、あれはあんな所にいたら駄目です。いられない筈のものでした」
「うん。良く分からないけど、あの後『お詫び』もいただいたしね。でもあのオークと今回のワームでは、魔物のレベルが違う感じがするよ。まぁ俺たちのレベルが上がっている事もあるとは思うけど、あの時の方が圧倒的で、なんだろうな、悪意を感じるっていうか、違う次元みたいな雰囲気っていうか……」
「でも、あのワームだってここにいたら駄目なものなのよ」
「………………」
俺が考え込んでいると、リヴィエールが口を開いた。
「あのさぁ、川を見に来ない? そうしたらそのオークとの違いが分かるかもしれないでしょう? それに私はもうそろそろ先には進めないの」
「え?」
「私はウンディーネ様からこの森のあの川の守りを託されているの。だからあの川からは離れられないの。この森に存在する事を許したのは女神様だけど。名前をくださって川を見るようにっておっしゃったのはウンディーネ様。だからさっき貴方が自分のすべき事をしろみたいな事を言ったけど、私はこれでも一応すべき事をしているつもりなの、とりあえずこれ以上話をしていてもしょうがないから、見て」
そう言うとリヴィエールは俺たちに向かってキラキラとした何かを振りかけた。
「ようこそ、私の川へ」
にっこり笑っているけれど、これ、強制連行だからな!
道から森の中に景色が変わって、目の前にはサハギンが現れた時よりは大きめの川が見えた。見えたんだけど……
「……え……ワーム。まだいるじゃないか」
川の周りにはまだあちらこちらにワームの姿が見えた。お陰で俺の背中がゾワゾワして、それに気づいたコパンが俺の結界を強くかけ直してくれた。さすがだね、コパン!
「大きいのだけが、貴方の神気の方に向かっていったのよ。魔力が強いものにとっては強い神気は苦しくなるみたいだから」
「それは聞いた事がある」
「へぇ、一応話はしているのね」
「…………必要な事はきちんと話しています、『お助け妖精』ですから」
珍しくムッとしているコパンの答えを聞いて、リヴィエールは楽しそうに笑った。
◆ ◆ ◆
川は確かに砂が溜まって埋め立てられているようなところもあって、かなり荒れているように見えた。だけど俺には川を修復するような力はない。その力があるとすれば川という名を与えられた彼女自身だろう。だが、彼女が修復する以上の勢いでワームが湧いて、育っているっていう事か?
「これってさ、どれくらいであの大きさになるの?」
俺は出来るだけそちらを直視しないようにワームを指さした。う~ん、さすがにあれはイソギンチャクには見えないな。体長は二十センチから四十センチと少し幅があるし、もしかしたら湧いた時期が異なるのかもしれない。
「ワーム自体はね、元々川べりから湧くし、大きめの魚はそれを食べるし、だからあんまり気にしてはいなかったの。でもちょっと昼寝してたらいつの間にかとんでもなく大きいのがいて、どうしようって思っていたら砂吐き出して川を埋め立て始めて。でも新しいワームは生まれてくるし、だけど食べてくれる魚は減ってしまって、」
「寝ていたのか!」
「お昼寝ですか⁉」
俺とコパンがそろって突っ込みをいれると、さすがのリヴィエールが「すみません」と謝った。
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