87 水の精霊リヴィエール
「あれはね、ちょっと前にいきなり現れたんだけど、とにかくよく食べてね、あっという間に大きくなったのよ。お陰で川の子達もだいぶ減っちゃってね。でもそれは自然の摂理だから、あたし達がどうこうするわけにはいかないわけ!」
サギの精霊は興奮したように先程聞いた情報も交えながら話していた。
「サギの精霊じゃない! 水よ!」
「……え……思った事が伝わるのか。……コパン、精霊ってこんなに自己主張が強いものなの?」
俺が尋ねるとコパンも、む~っと眉根を寄せて口を開いた。
「個別差はあります。でもここまでは。名前持ちという事は、中級妖精だと思うのですが。ちょっと落ち着きが足らないかなぁ」
「お助け妖精にあたしの事をとやかく言われたくない!」
即座にそう言い返して来た水精霊に、俺は「はぁ~」と溜息をついて歩きを止めた。
「あのさ、君はなんのためについてきているの? 俺はお礼はいらないって言ったよ。それに俺の『お助け妖精』にそんな事を言うなら、今すぐ森の中に帰ってくれ。俺達は俺達が決めた事の為に前に進んでいる。ジャイアントワームはいなくなった。君も君が決めた事をするべきだ」
俺の言葉に、サギの水精霊は一瞬呆然として、次にボロボロと泣き出した。
泣くサギ、初めて見た。でも、俺は間違った事は言ってないぞ。
「なによ! そんな風に言わなくてもいいじゃない! だって誰かと話すの久しぶりなんだもん!」
いや、そう言いながら嘴でつつくのはやめてくれ。先端恐怖症じゃないけど、嘴って結構怖いんだよね。
「……じゃあこうする」
そう言うと水精霊は50cm程の人型になった。背中に先程のサギと同じ色の翼がある。俺の元の世界でよく描かれていた絵本の妖精みたいな感じだな。へぇ、こんな事も出来るのか。そう思った途端肩の上でコパンが小さく震え出した。
「ア、アラタ様はああいう姿形がいいのですか?!」
「…………は?」
「先ほどワームを倒した時にレベルが上がりました! アラタ様と一緒の7です! 10になったら中級です!そうしたら姿も自由に変えられますから!」
久しぶりにグルグルの瞳になっているコパンに俺は「コパンはコパンのままで大丈夫だよ」と言いながら、何だか混沌としている場にもう一度溜息を落とした。
◆ ◆ ◆
「話を聞いてほしいの。話せる人に会ったのは久しぶりで、これは話しておいた方がいいって思うから」
「……それならウンディーネ様にお話しすればいいのに」
少し疲れたようにそう言うコパンに、俺は「ウンディーネ様って?」と尋ねた。
「水の上級精霊です」
「なるほど、上司か。それならそちらに報告をすべきだよね」
俺たちのやりとりを聞いていたリヴィエールが「ウンディーネ様はお忙しいの!」と噛みつくように言う。
「いや、俺たちも暇ではないよ」
「ですよね」
「……どうしてそんなに意地悪言うの! だって、ここは女神様の森でしょう!? ウンディーネ様は上級精霊だから関わりないでしょう? 貴方は女神様の神気を受けている転生者じゃないの!」
「『不幸な事故』でこっちに生まれ変わっただけだけど」
「へ?」
「とにかく、俺は女神に直接会った事もないし、何かを訴えられてもそれを伝える術もない。さらに言えばそれを報告する義務もない。とにかく一度この森を出て、外がどうなっているのかを知りたい。その為に俺たちは進んでいるんだ」
「……外……変わっているわね。貴方」
お前に言われたくない。
それがまた伝わったようで、リヴィエールはケラケラと笑った。
「まぁ、いいわ。とりあえず、土の精霊の祝福を持っているんだから、あたしの話も聞いてよ。あたしが言いたいのは、あれがこんなところにいきなり現れたのはおかしいって事よ」
「でも、時々<はぐれ>みたいに想定外のものが現れる事はあるだろう?」
俺がそう言うとリヴィエールは小さく首を横に振った。
「<はぐれ>がよく分からないけど、でもあんなのが何の前触れもなく現れて、食い尽くすような勢いで川の子達を食べて、更に砂を吐き出して川さえも埋めてしまうなんて、この森としては考えられないのよ。だってここは女神様の森なんだから。大きな変化なんてありえないでしょ!」
「……どういう事?」
俺がコパンを見ると、コパンも難しい顔をしていた。
「ありえないものが入り込むみたいな感じですか?」
「そう。そういう感じ。だって、ここはいたらいけないものはいられない筈だもの」
うん? 女神の森は何かそういう決まり事みたいなものがあるのかな。
「そうよ」「そうです」
リヴィエールとコパンの声が重なった。
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