86 あれはイソギンチャク
コパンは転移のスキルがかなりレベルアップしているみたいで、俺が言った通りの場所に転移をした。
すると道の際で威嚇をするように蠢いていたジャイアントワーム達は一斉に方向転換をし始める。といっても身体がでかいし、一匹だけじゃないからすぐにこちらを向けるわけではない。
俺にとってはラッキーだ。
だって、やつらの顔を見なくて済むもん。
口を開けるからさ、なんかこうミミズっていうよりも、イソギンチャクみたいに見えなくもないんだよね。胴体を見なければ。だから俺は頭の中でひたすら唱える。
あれはイソギンチャク。
あれはイソギンチャク。
あれはイソギンチャク。
そしてアイスを作った時の何倍、いや何百倍もの魔力を練って、以前チェーンソーで作っていたのを見た事があるカチンコチンの氷の像を思い浮かべた。足りなければ、ばぁちゃんが読んでくれた日本昔ばなしの雪女。だって魔法は想像力だから!
「『フリーズ!』」
特に辺りにブリザードが吹き荒れたとか、そんな事はなかったけれど、目の前のイソギンチャクはカチコチに凍り付いていた。
「『ウィンドカッター!』」
そしてすかさずコパンが、どうやら四匹いたらしいジャイアントワーム達をスパスパスパッ! と大きめの乱切りにする。
うん。中まで凍り付いているからね、色々なものも飛び出さないでいいね!
でも収納するのはさっき言っていたようにコパンの収納にしてね!
俺のインベントリは無理だから!!
「アラタ様はすごいです! あんなに大きなワーム達を全部カチカチに凍らせてしまいました! ワームの素材も売れるので、とりあえずこのまま収納してしまいますね。拠点に帰ってから《解体》をお願いします!」
うん。《解体》はいいよね。不要なものはどうしてかは分からないけど、消えてなくなっているんだもの。でもコパン、俺はこのワームの肉が残ったとしても食べないからね。どんなに美味しいって出ても、虫は食べない!
◆ ◆ ◆
ワーム達が倒されたのを見て、隠れていた動物達がチョロチョロと姿を現し、道に避難をしていた、さらに小さな動物達も森の中に戻ってきはじめた。やれやれだ。とにかくこれ以上の面倒事に巻き込まれないため、俺は森に入ってくる動物たちを避けながら道に出ようとした。したんだけど…………
「あんた! なかなかやるわね!」
「……………」
「神気も結構あるし、土精霊の祝福も受けている。もしかして、勇者?」
バサバサと羽を動かしながら、限りなく上から目線でものを言う鳥を俺はまじまじと見た。きっと俺の顔はあのチベットスナギツネのようになっていたと思う。
けれど鳥は答えを待っていてあげているという態度でこちらを見ていた。
元の世界でも見た事のある、水辺で見かけるサギみたいなスラッとした鳥だ。というか、俺、土精霊の石を使ってないのになんで声が聞こえるんだ?
「ちょっと! 聞こえていないの?」
「いや、聞こえてるけど。え~、勇者ではなく旅人から冒険者になった、ただの人です。お構いなく」
早口でそう言って歩き出そうとすると、サギは慌てて翼をバサバサさせて俺の行く手を阻んだ。
「ちょっと! 話しているのに失礼ね!」
「いや、あんた呼ばわりして、進むのを邪魔する方がよほど失礼だよ。とりあえず、俺は勇者じゃないから」
「ま、待ちなさいよ!」
「あ! アラタ様に何をしているんですか!」
ジャイアントワームの収納を終えて、多分、周囲の確認をしていたのだろうコパンが俺の前に飛んできた。
「ん? 『お助け妖精』? て事はあんた、転生者ね!」
いや、どうでもいいけど、どうしてこのサギはこんなに上から目線的で、攻撃的なのかな。
「収納終わった? それなら、ここをマッピングするのは嫌だからもう少しだけ進んで戻ろう」
「はい! アラタ様」
「ちょっと! 無視するんじゃないわよ! あたしは水精霊のリヴィちょっと! 無視しないで! 川のお礼くらい言わせなさい!」
「お礼?」
俺は道の上で振り返った。
「そ、そうよ! あれが現れてどんどん大きくなって砂を吐くから川が埋まって、だからあたしはお礼を」
「いや、お礼はいらない。おかまいなく」
「おかまいなく~」
肩の上に載ったコパンが俺の言葉を真似て、サギは「ちょっと待ってって言っているでしょう! 待って!」羽をバサバサとさせながら道に飛び出してきた。
なんだよ、精霊は弱くないのに道に出られるのか。
そう思った俺の肩でコパンも「出られたのですね……」と同じ事を言っていて、俺は思わず噴き出してしまった。
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