85 強制バトル?
まだはっきりとは見えないけれど、逃げている動物達の後ろからやってくるのは以前戦った事のある半魚人のサハギンではなかった。だって、明らかに二足歩行ではないし…………
「コ、コパン、俺このまま逃げ出してもいいかな」
だって、まともに戦える気がしないんだ。というか、見られる気がしない、ううん。見たくないんだよ!
「…………どうしてこんなところにワームのレア種が……」
コパンもあまりにも意外だったのか、ちょっと呆然とした声を出していた。
そう。ワーム。分かるかな? ミミズ。ミミズだよ!
しかも大蛇かよっていうミミズ! 俺の【鑑定】では<ジャイアントワーム>って出ている。なにそれ。しかもあれ、一匹じゃないよね⁉
いや、無理だから。
絶対に無理だから。
何をどうやっても無理だから!
俺はそのまま前に進み始めた。だって、ここであれを待っていなければならない理由なんてない。
この道に出てきている小動物達は気の毒だけど、俺はこの世界を救うとか、全ての敵は俺が倒すとか、困っているものがいたら力になるとか、そんな事は考えていないんだ。
一度死んでいるからね、命大事。
よほどの事がない限り無理は避けるし、撤退は最大の防御だと思っている。
「ア、アラタ様! ワームが追いかけてきます!」
「は? 道に出てきたの⁉」
「いえ、森の中を横移動しています」
「!」
なんて迷惑なんだ!
「あいつはどうして俺にロックオンしているんだろう? 強い魔物は強い神気の中には入れないんだよね。神気が強かったら避けるんじゃないの? この前のオークとかボアとかも向こうからやって来たよね。神気が強いと敵認定されるのかな? それとも俺から出ている女神の残りみたいな神気は中途半端に強い感じなの?」
「そ、それはよく分からないのですが、アラタ様の身体は女神様が作ったので、それを神気と感じるものはいると思いますけど、神気に向かって攻撃をしてくるというのは…………」
コパンの目が久しぶりにグルグルになった。
そうだよね、普通なら神気って心地よかったり、敬うような気持ちになったりするよね。
「私も気になるので、女神様にお聞きする機会を作っていただくようにお願いをしてみます。すぐにお話しできるかは分かりませんが……」
「うん。何か分かったら教えて、俺も何か出来る対策があるならやってみようと思うし。こんな事を繰り返していたらいつまで経っても森から出られないしね」
それに万が一にでもそんな追加オプションみたいな設定があるんだとしたら、街になんて行かれない。だって魔物を引き込むような事になったら目も当てられないよ。とてもどんな世界なのか見てみるどころの騒ぎじゃない。
「ああああ、でもあれと戦うのは嫌だぁぁぁぁぁぁ! だって俺、勇者とかじゃないもん! そういうのは勇者の称号をもらった人がやってくれよ!」
ガシガシと頭を掻きむしって喚くとコパンが心配そうな顔をして覗き込んできた。
いつの間にかコパンは肩の上から下りて、俺の目の前にふよふよと浮かんでいた。
「……ごめん」
「いいえ、女神様もアラタ様にそんな事をお願いはしていませんでした。私は女神様からこの世界で幸せに過ごさせてあげるようにと言い付かっております。女神様がアラタ様に望んだ事はそれだけです。女神様はこの世界に寄せた者達に、枷をつけるような事はなさいません。やりたい事をやれるように。無茶をさせないように。そしてその為に私達『お助け妖精』がいるのです」
ワームたちが近づいてくる気配を感じながら俺はコパンの顔をじっと見て、それから小さく笑った。
「カッコ悪いところを見せてごめん。とりあえず、横移動はマジで迷惑だから、止めようか」
「! はい! タランチュラの時みたいに後始末は全ておまかせあれ~~~!」
そうしてやってきたミミズというよりはでかくて長いイソギンチャクのおばけみたいなやつらに向けて俺はヘタレ上等という気持ちで道の上から鉛玉の《乱射》をお見舞いした。
したんだけど!
「う、嘘だろ⁉」
以前オークジェネラル達にお見舞いした【アイテム】魔法の《乱射》は、駄目かなと思った俺の予想を覆して道のから森の中のミミズ、もといジャイアントワーム達に鉛玉を無数に飛ばした。
やった! と思った。思ったんだけど!
ジャイアントワーム達はそれを体の中にズブズブと吸収して、あろう事かこちらに返してきたんだ。もっとも俺が撃ったそれは森の中に入れたのに、ワーム達が飛ばしたそれが道に飛び出してくる事はなかった。
「…………ムカつく、イソギンチャク」
そう。あれはでかくて長くて気持ち悪いイソギンチャクだ。それなら何とか大丈夫。
「コパン、『フリーズ』してからカッターで切るのはどうかな。先にカッターで切っても再生しそうだから。凍らせて切り刻んだらいけるかな」
「やってみましょう! でも氷魔法は取得していますが『フリーズ』は初めての魔法ですよね?」
「うん。でもほら、料理ではやった事があるから、もしかしたらLv1くらいは取得しているかもしれないよ?」
「! そうでした! 前に、牛乳とお砂糖とイチゴでアイスを作ってもらいました! ではそれで! 魔力切れだけは気を付けてください!」
「了解。ここからでも出来るかもしれないけど、中に入ろう。コパン、やつらの少し離れた後方に転移できる? あの木の辺り」
「おまかせあれ~~~!」
こうして強制的に巻き込まれた戦いが始まった。
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