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82 話し合い

 現実逃避をしていたけれど、分かっていたんだ、本当は。

 だって、声に合わせて森の中のコッコが俺をジロジロ見ていて、その後ろからもう一匹の雌らしいコッコがやってきているのが見えたんだもん。


「アラタ様、やはり土精霊からいただいたその石で、アラタ様と話をしたいと思っている者と話せるようになるみたいです」

「そうなんだ~……」


 ごめんね、コパン。なんだかやる気のないような声が出ちゃって。


「私はアラタ様と魔物とのやりとりは伝わってくるみたいです」


 という事は、話はあくまでも俺がするんだね。俺はふぅと一つ息をついてからコッコ達に向かって口を開いた。


「…………えっと、ひよこ、じゃなくて、あなたのお子さんが森の入り口でこけそうになっていて、他の子たちが気付いていなかったようなので、思わず手が出てしまいました。すみません」


 俺がそう言って頭を下げると二匹の魔物はお互いに顔を見合わせて頷いた。


『こちらもいきなりすまなかった。我らは〔神の道〕には出られないが、この子らはまだ出る事が出来る。力の強いものが襲って来た時にはそちらに避難をさせる事があるのだ』

「そうだったんですね。一番後ろのおチビちゃんが一生懸命頑張っていたから見守らなければと思っていたんですが、前の子たちと差が開いてしまったのでつい。人の手が触れてはいけませんよね。私も気を付けます」


 俺がそう言うと母親らしいコッコが頷きながら口を開いた。


「こちらも面倒なもの達を追い払ったばかりだったので、気が立っていました。私達も気を付けます」


 ああ、話が分かる両親で良かったよ。まぁ確かにいきなりだったけど、俺も勝手に手を出しちゃったのが悪いからね。


「はい、では。お子さんたちが皆元気で大きくなりますように。失礼します」


 よし、これでなんとか穏便に……と思った瞬間、父親のコッコが口を挟んできた。


『ふむ、土精霊様とご縁がある方に、話も聞かずにとびかかってしまったのは申し訳なかった。何かお詫びをしたい』

「! い、いえ! こちらこそ、誤解をさせてしまうような事をしたのですから。もうこれでおしまいという事で!」


 思わずコパンを見たけれど、今回は相手が土精霊の加護を持っているわけじゃないからコパンは話には参加出来ないんだった。


『そうねぇ、じゃあ、何か欲しいものはあるかしら?』

「欲しいもの……」


 一瞬、卵が浮かんだけれど、ここで卵なんて言ったら元の木阿弥だって事くらい俺にだって分かるよ!


『何? 卵?』

「!」


 どうして通じちゃうんだよ! 俺、何にも言っていないよ! ほら、コッコたちの目が厳しくなってきちゃったじゃないか!


「いいいいいいいいえ! そんな事は!」

『いや、確かに卵と聞こえてきた。ふむ……』

『……そうねぇ、子の入っていない卵なら差し上げるわ。どうしても毎日出てきてしまうのだけど、子がいない卵を温めてもしかたないから。それにそのままにしてヘビどもに食われるのも癪だしね』


 ようするに無精卵って事か。


「で、では、子供の入っていない卵をいただく代わりにこちらをどうぞ」


 俺は『神気(高)』のエリアでみつけた小麦を出した。収穫したままで保存をしているものだ。葉もついていて黄金色の穂が美しい。【補充】が出来るようになってから増やしたんだ。


『こ、これは素晴らしい! 土精霊様だけでなく、女神様ともご縁があるのだな。ふむ、ではこれも。何かの時に役に立つかもしれん』


 俺は三つの卵と見事な尾羽を一つもらって、コッコ達と別れた。



   ◆ ◆ ◆



「ねぇ、コパン」

「はい、なんですか? アラタ様」


 俺は道を歩きながら肩の上のコパンに話しかけた。


「この道はさ、このエリアでは弱いものを守るために魔物たち自身が使う事もあるんだね」

「そうですね」


 ずっとそこには置いておけないけれど、一時的な避難をさせる。ここに住む者達は本当に色々と考えているんだなって思ったよ。

 それにしてもどうしてあのネズミは俺にこんなものをくれたんだろう。土精霊自身に確認をする事もなく、祝福なんて授けてもいいのかな。


「多分……ボアから守ってくれて、洞窟に住みついてしまったリザードマンをやっつけてくれた者に与えていいって言われていたのかもしれませんよ。そういう者なら、今日みたいに魔物たちの声もちゃんと聞いてくれるかもしれないって」


 どうやら俺の気持ちが伝わったらしいコパンがそう答えてくれた。


「不思議な体験だったな」

「そうですね。でも、アラタ様は全ての魔物たちの声を聞く必要はないのですよ」

「コパン?」

「アラタ様が話をしたいと思って、今日のコッコのようにアラタ様と話したいと思うものとだけ話をしたらいいのです。そうでなければ駄目です」


 コパンはパステルブルーの瞳で俺の事をじっと見ていた。そして、俺もコパンがどうしてそんな事を言い出したのかを考える。


「…………うん。そうだね。襲ってくるハイウルフやオークと話をしている暇はないよね」


 きっとコパンは、声を聞くことで俺が傷つくかもしれないって思ったのかもしれないなって、ふとそんな事を考えた。

 でもそれは口にしなくてもいい事だ。だって、俺自身も全ての声なんて聞くつもりはないんだから。


「はい。そういう事です。それにきっと土精霊だって、そんな事は望んでいませんよ」

「そうなのかな」

「はい。精霊たちは私たち以上に気まぐれで、気難しいですからね」


 ニコニコと笑ってそう言うコパンに、俺は笑って「そうか~」と答えた。


「ありがとう、コパン。これはいつも使うんじゃなくて、そう思った時にだけ使うものにするね。この羽と一緒にしまっておくよ」

「はい」


 俺はインベントリの中に土精霊の祝福の石が入った箱と、コッコがくれた卵と羽をしまった。

 そして今日の旅を終えて、俺たちは拠点へとマッピング転移をした。

 よし、今日の夕食は、オムレツだ!


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